T ――守りたいんだよ。お前を 失ったものが返ってこないなら失わないように 壊れたものが戻らないならさらに壊れて 否定して否定した後には肯定を 「あーったく面倒だ」 朔夜は何度繰り返しても有効打とならない攻撃にイラつきを覚える。いくら攻撃しようと砌は交わす。 二対一だというのに、余裕の表情を崩さない砌と自分たちの間に明確な実力差が存在しているようで、自分自身に対して苛立ちを隠せないのだった。 攻撃系の術に頼りっきりの朔夜は接近戦で直接砌と戦う郁の手助けをしてやることも出来ない。歯がゆかった。郁の邪魔にならないように、後方に下がり術を駆使するだけ。郁を防御して上げる為の防御術も扱えない。 「朔気をつけろよ」 「わかっているよ」 時折、朔夜と郁は掛け声を出し合う。お互いの存在を確認し合うように。 それだけで、朔夜の苛立ちは薄められた。前線で郁が頑張ってくれるなら、後方で援護しよう、という気持ちを再び取り戻す。苛立ったところで、接近戦が得意になるわけではないし、防御術が使えるようになるわけではない。今やるべき事をやるだけ。 朔夜にとって、生まれた場所である罪人の牢獄を守り、大切な仲間と過ごす日々を守るために。 この戦いが終わった後、斎からは防御術を学び、郁と篝火からは体術を学びたいと朔夜は思った。 乱戦での足手まといは御免だったから。自分が接近戦で戦うことになっても、皆に心配をかけないように。 守られるだけでなく、お互いに守りあえるように―― [*前] | [次#] TOP |