零の旋律 | ナノ

第六話:黒き愛


 ――全ては幻想なんかじゃない。だから私は今生きていられる

 郁と朔夜は砌と相対していた。
 砌のメイスによる打撃の威力は強力で一撃一撃に重みがあり、郁は刀で受け止めることはせずに砌の攻撃を交わす事に専念した。隙あれば攻撃に移ろうとしていたが、その隙は一向に見当たらない。
 二対のメイスを巧みに振り回す砌に対して、本来二刀使いである郁だったが、連日の連戦での傷口が開いたこと、相手の力が強いことから、一刀を両手で持つ戦い方に変えていた。

 朔夜は後ろから雷の攻撃を仕掛けるが、砌は直前で郁への攻撃をやめて後方に下がり、朔夜の攻撃を交わす。またメイスには特殊な絶縁体と避雷針を混ぜたものでも含ませているのか、雷が砌に向かっていく直前にメイスを頭上に掲げることで、雷をメイスにぶつけた。雷は砌まで伝達することなく空中に霧散して終わる。その繰り返しだった。以前の朔夜は王族である可能性を知られない為、極力知られる可能性あるものを避けてきた。光属性の術もまたその一つ。しかし王族だと知られた以上、隠す必要は何処にもない。
 雷の単調な術以外にも織り交ぜて攻撃するが、砌は悠々と交わす。

「可愛い子たちだけれど、死んでね」
「お生憎様、早々殺されるほど弱くはないんでな」

 何度も何度も負けてはたまらない。負けたら死ぬ。

「しぶとすぎるのも考えものよ」

 全力で当たる二人に対して。砌は何処か余裕だった。
 砌は郁と朔夜の弱点を見抜いていた。郁は力技に弱く、朔夜は接近戦に弱いことを。
 それを利用し、砌は力任せにメイスを振るいつつも、反動に負けないように二対同時に振りまわすことはしない。一方を振り回している間は、一方を地面のほうに向け、砌自身のバランスが崩れないように重心をしっかりと立てておく。一対のメイスでも、その破壊力は絶大だ。
 郁がメイスを受け止めながら攻撃をしてくるのならば、砌は戦法を変えたかもしれないが、今のところ力に自信のない郁が受け止める様子は一切ない。

「……女なのに力ありすぎだっ」

 郁は悪態をつく。
 砌の力は女性とは思えないほど強く、一撃でも受けたら手が麻痺をして刀を掴めなくなりそうだった。
 だから避けるしかない。

「訓練のたまものよ」

 悠々と答える砌。郁とは違って余裕がまだまだある。
 郁はその様子にまだ何か手を沢山隠していると判断する。


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