零の旋律 | ナノ

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 楽羽(らくはね)家は雅契分家の中でも、大した勢力と地位は持っていなかった。
けれど、楽羽家の面々は、平穏に暮らすことを望み、それを気にしなかった。
下手な柵もなく、悠々と日々を暮らしていた。蘭舞、凛舞、煉舞の両親は魔術を扱う事にある程度長けていたが、魔術を扱う事が余り得意ではない息子たちを責める事もしなかった。
 術を得意とする雅契分家に生まれたからといって、術を得意とする必要は何処にもないのだと、何時も微笑んでくれた。彼らはその言葉通り、のびのびと育ち、自分たちの道を進むことにした。
 楽羽家族は確かにその時までは幸せだった。
 しかし、それが偽りだということに蘭舞と凛舞はある日気が付いてしまった。
 きっかけは些細なこと。本当に些細なことだった。ある夜、夜中に偶然目を覚ました蘭舞はお茶を飲もうと、自室から階段を下りて一回のリビングに向かった時だった。両親の会話を聞いてしまった。全ての始まりで全ての終わり。

「理由もわからずに引けるものか! 兄さんたちが、兄さんたちがっ……! 罪を犯したから、俺たちは大変だったんだ。何も知らないままにはいたくない!」

 些細なきっかけで、蘭舞と凛舞は信じていたもの全てが覆された。
 両親の本音を知ってしまったから。両親の真の願いを聞いてしまったから。
 その時から歯車は壊れかけていた。否、元々壊れていた歯車がさらに壊れただけだったのかもしれない。
 その結果として、蘭舞と凛舞は時間帯で姿が変わるようになり、蘭舞と凛舞は罪人の牢獄へいくことになる。けれど、その事実を実の弟である煉舞にだけは告げたくはなかった。
 何も言わずに去った。そしてそれを口にすることは生きている限りするつもりはなかった。
 例えどれ程、煉舞が真実を望もうとも。

「引いてはくれないか……」
「あたり前だ! 裏切り者なら死ねっ」

 悲痛な叫びが蘭舞と凛舞の心に響く。
 蘭舞と凛舞は覚悟を決めた。これ以上悲しませたくない。それは身勝手なエゴだとしても。

「ならば……何も知らないままに死ね」
「ならば……何も知らないままに死ね」

 煉舞にかける最後の優しさ。事実を知った煉舞が確実に壊れることを知っていたから。
 何故なら、自分たちがそうであったから。これ以上壊れるくらいなら、大切な弟をこの手で殺す。
 蘭舞と凛舞は避けるだけから一転して攻撃に映る。

「愛しき弟よ、さようなら」
「愛しき弟よ、さようなら」

 蘭舞と凛舞は隠し持っていたナイフで、煉舞を貫く。急所を外すことなく一撃で。せめて苦しまないように。

「楽羽煉舞わが愛しい弟よ」
「楽羽煉舞わが愛しき弟よ」

 楽羽蘭舞と楽羽凛舞は再び強い決意をする。楽羽を陥れた元凶をこの手で殺すことを。

 一つの終焉が訪れた。
 蘭舞と凛舞は心の底にぽっかりと空いた空虚を埋めるかのように、煙草を取り出し吸う。
 決してのその空虚は埋められないと知りながら――


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