零の旋律 | ナノ

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「あたしは優しいので教えてあげますよ。さっきのは、釘の裏を返すようなたいちょーの特製術でして、あたしでも使えるようにして下さったんですよ。動かなくて正解でしたね。まぁ、その術効果時間は短いからすぐに消えちゃうんですけども。下手に動きまわろうものなら、ぐさっ! と術が発動して威力抜群のが、あんたを貫いていたですよ」
「お前……口から先に生まれたんじゃないのか?」
「無患子は三年磨いても黒いんですよ!」

 篝火の全身から悪寒が消え去るのと同時に、動く。再び柚葉と向き合う。

「……お前って馬鹿なのか賢いのかわからないな」

 篝火の柚葉に対する率直な感想だった。

「褒め言葉として受け取っときますですよ」

 柚葉はニヤリと笑い、槍を篝火に向かって突き出す。柚葉は体術が出来ないわけではない、接近戦全般の格闘技は得意だ。しかし、一番得意なのは槍術だ。何せ――長年を共にしてきた相棒だから。

「ちっぃ」

 素手で戦う篝火にとって、不利なことは柚葉と違いリーチが短いこと。
 相手の間合いに入らなければ、勝機を得ることは難しいだろう。

「(あたしがここに来た理由は簡単なんですよ。そう……意趣遺恨なんですから。あたしは、あたしの大切な人から、大切なものを奪った存在が許せないんですよ)」

 柚葉は心中で呟く。大切な人を壊した罪人が許せなかった。
 だからこそ、悧智が白圭に会いに行くといった時、自ら志願してついてきた。罪人の牢獄が危険な場所など覚悟の上で。仮に白圭たちと一戦を交えることになったとしても、大切な人を壊した罪人が、もしもこの地で生きているなら――大切な人の代わりに復讐を果たしたかった。それだけ。
 それが歪んだ想いか、純粋な想いか柚葉には判断出来ない。けれど、柚葉はこれだけは理解していた。もう、元には戻れないことを。この地に自ら赴いた時点で自らも罪人なのだと。


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