零の旋律 | ナノ

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 柚葉は篝火と戦っていた。柚葉の突く攻撃を、身体の軸をずらしながら篝火は交わす。その動きには一切の無駄がない。しかし、篝火が攻撃に移ろうとしても、素手と槍のリーチの差もあり、中々柚葉に攻撃が届かない。

「えぃっですよ」

 柚葉の鋭い一撃を、篝火は右に避けて一歩前に足を踏み出す。ジャリッと砂の音が鳴る。
 篝火はそのまま右手で槍の柄の部分を掴む。

「きゃわっ!?」

 篝火は腕力で柄を自分の方に引っ張る。篝火と比べて腕力の弱い柚葉は力負けし、前の方に引っ張られる。とっさに柚葉は自分の身を守り相手を殺す武器を手放す。武器を手放すことは自身の身を危険に晒すことでもあったが、現状では致し方ないことだった。武器を手放さずにいれば、柚葉は篝火の元まで近づく事になる。柚葉にとってそれは避けたいことだった。だから咄嗟の判断でそれを回避する。
 柚葉は距離をあけるため、数歩後ろに下がる。篝火は奪った槍を、柚葉の手に簡単には届かない位置まで後ろに投げる。槍は宙を回転して、数メートル離れた先の地面に突き刺さる。しかし砂であるため、重心は崩れ、横に倒れる。

「あぁ、私の槍がっ。……わかりました! 皮を切らせて肉を切り、肉を切らせて骨を切る覚悟で挑みますですよ。一筋縄ではいかないみたいですからね」

 柚葉は体術の構えになる。槍が遠くに投げ捨てられた今、それを取りにいくことは相手に隙を見せることになる。一旦は体術で戦い、隙を見て槍を取りにいくことにした。
 問題はその隙をどうやって作るか。柚葉は思案しながら、篝火の様子を伺う。
 篝火の右から来る攻撃を交わし、肘を狙って攻撃するも交わされる。

「……お前はなんで罪人の牢獄に命をかける?」

 篝火は問う。天真爛漫の言葉が似合いそうな少女が、この場所に何を目的としてきたのか。少女は最初からこの地に来た白き断罪ではない。新しくきた白き断罪だ。格闘しながらの問いかけ。
 悧智のような性格の持ち主であれば、篝火はまだ理解出来た。けれど柚葉は違う。学校に通い、友人と仲良く遊んでいるのが似合いそうな少女が、この場所に命をかけて踏み入れた理由が理解しがたかった。

「愛は憎悪の始めってやつですよ。それにあたしはお前じゃなくて柚葉(ゆうは)ですよ」

 その刹那。柚葉の瞳が暗く沈んだのを篝火は見逃さなかった。明るさとは裏腹に暗さを持つ瞳。

「心のつつる姿だぞ」
「ほへぁ?」

 柚葉は篝火の言葉に一瞬きょとんとする。


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