零の旋律 | ナノ

V


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「柚下がって!!」

 第一の街の復興作業の為、榴華と柚霧たちは第一の街へ来ていた。
 その時、突如榴華は殺気を感じ取り、一緒に作業していた柚霧にたいして叫ぶ。
 柚霧は榴華の言葉に疑問を覚える事もなく、後方に下がる。
 榴華もそれと同時に、後方に下がった。すると、ほぼ同時に榴華が先刻までいた場所に銃弾が当たる。

「狙撃……」

 榴華は銃弾の方向から狙撃主を探ろうとしたが、その必要はなかった。
 何故なら狙撃主自らが姿を現したから。黒き髪に赤い瞳、眼鏡を白き断罪で唯一装着し、白い衣には薄茶色のベストを羽織っている。白き断罪第三部隊、焔(えん)

「自分はあの時の狙撃主やないか」
「ふーん、覚えていたんだ。……俺は焔。要件はわかるよな?」
「勿論。自分を殺しにきたんやろ?」

 榴華は悠然と立つ。焦りは感じられない。第一の街に連れてきた罪人が各々の武器を取り出そうとするが、榴華は片手を横に伸ばし、制止する。この場にいる罪人では焔の相手は務まらないし、足手まといになるだけ。
 下がれ、との無言の命令に罪人達は大人しく従う。従わずして、死にたくはない。
 死にたくないからこそ、榴華に対して大人しく従っているのだから、この場で逆らう事に意味はない。
 焔も、榴華以外の罪人を狙う素振りを一切見せない。
 狙撃銃の銃口を地面に当てて、榴華とはまた違った飄々さを見せる、
 余裕からの態度ではない。余裕が生まれない相手だからこそ、自分を落ち着かせる為に、余裕があるように見せているのだ。

「……自分一人できたんか?」

 他の仲間がいないか、榴華は周辺の気配を慎重に探るが、一向に気配を感じる事はなかった。この場には焔以外いないのか、それとも榴華をしのぐ戦闘能力保持者か。

「あぁ」

 焔の言葉で、後者の心配は切り捨てられる。最も、焔が本当の事を言っているのであれば、だが。榴華は焔の言葉を信じた。この街は殆ど人数がいない。それならば、その 第一の街に人数を割くとは到底思えなかった。一番人数を割くのならば、第二の街であろう。だから雛罌粟は第二の街の様子を気にかけていた。篝火たちの実力者を手元に置く事で、安心材料にしていた。

「……自分らは本当に、この牢獄を滅ぼしたいんかいな?」

 榴華の率直な問い。

「馬鹿だろ、って思っているのだろう?」
「思っているよん。此処までの規模と勢力を持ってしまった牢獄を、今さら誰かがどうにかしようと思ったところで無理や」
「わかっているよ」

 榴華にとって予想外の返答だった。
 無理だと理解していながら、この地へ赴く事は、政府への裏切りと自らの死だけ、なのに何故この地を滅ぼしにやってくる。


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