零の旋律 | ナノ

V


「…………」
「あー、その目は疑っているね? でもいいの?」
「何が?」

 怪訝な顔をする。水波の言葉はイマイチ理解出来なかった。玖城家が本当に此方側についていたのか、知らないから。事実か虚実か判断する材料はない。

「多分、だけどねぇ。紅於は白き断罪を始末するために動いているよ?」

 あたり前といえば、至極当たり前。それでいて残酷な事実を告げる。

「!?」
「紅於だって街を破壊されたら困るしね。君たちは、まぁ。雛罌粟が僕の事を怪しんで、信頼が置ける君たちに話したんだろうね。そして白き断罪の一員であった斎は、僕の正体を看破したんでしょ?」
「…………」
「君が今、危惧していることが真実であるなら、助けに行かなくていいの?」

 斎は何も言っていない。しかし、水波は全てを見透かしていた。何処までが真実で、何処からが偽りか。斎に判断する術はない。けれど、一つだけわかることがある。水波の思い通りにはさせない。水波の思惑通りになれば、それは白き断罪だけでなく罪人の牢獄を傷つけることになる。
 ――恐らく、水波の目的は
 ――政府と罪人の牢獄を滅ぼすこと

「さて、どうするの?」

 斎は返答に閊える。その時、烙が斎の前に一歩で、斎を制すように手を横に広げる。

「何!? 烙」
「追え。俺はこいつを殺す」
「白き断罪が物騒なことをはいちゃいけませんよー」

 能天気に水波は烙に声をかけるが、烙が話しているのは斎であって水波ではない、と返事をしない。

「……斎は優しいから、いつも誰かを守るために行動しているんだろ。任せろ」

 その言葉だけで十分だった。
 二人は背中を預けられる相棒であり親友。
 絆は何処までも繋がっている。

「わかった、また後で合流しよう」

 斎は烙に背を預け走り出す。
 水波は鞭を鞭が撓ったが、烙が刀で受け止める。
 鞭には金属物質が混合しているのか、切れる事はなかった。
 鞭は撓り、水波の元へ返る。

「あぁ、後でな――親友」

 振り返らない。また後で会えるから
 一度手放した糸を、もう手放すことはしない。
 解れた糸は再び結ばったのだから

「一人逃しちゃったか」
「……最初から逃すつもりだった癖に、何を言うか。お前は一体何を企んでいる?」
「簡単に言えば、政府が嫌いなんだよね。……僕にとっては。ただ駒を使い捨ての駒としてしか見なかった政府が。僕を含めてね……、だから滅ぼす為に色々なものを道具として利用させてもらう、それだけさ」
「お前の目的は現在進行形か?」
「勿論。例え、こんな場所に堕とされても、僕は僕の目的を忘れることはない。白圭と手を組んだのは白圭がこの牢獄にやって来てくれる、からさ」
「……白圭は俺たちの隊長だ」

 その、隊長を陥れる真似は許さない。裏切った烙が言える言葉では本来はないとしても、烙は刃を向ける。唯一居場所をくれた仲間と親友の為に。裏切り者の、せめてもも行動。

「まぁ、それはそれでかまわないか」

 烙と相対する水波。
 全ては己の信念を貫くために――


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