零の旋律 | ナノ

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――ただ、そこに丁度いい駒が転がっていたから利用した、それだけ

「……じゃあ、何故天才軍師様はこの罪人の牢獄にきているの? それも片腕を失って」

 最初から水波は隻腕等ではなかった。
 今の水波の身を守るための、人を殺す為の武器は鞭である。実際鞭を振るい戦う姿を見たことがあるものは少数だったが、その姿は機敏で一つ一つ無駄のない動きをする。
 しかし、水波本来の武器は鞭ではなかった。
 斎が昔、天才軍師と呼ばれていた水波の手元にあった武器は弓だった。


「原因ならわかっているでしょ? 三年前の……政府内で起きた派閥の乱の時、反対勢力の首謀者が僕だったってことを、それに僕は敗北して片腕を失ったばかりか、こんな辺鄙な地に送られてしまったわけさ」
「嘘」

 短く、だけど力強くはっきりと斎はいった。
 三年前。一部の政府内の派閥争いが起きた。そして、その結末は現政府を打倒を目標としていた、反乱勢力が破れ、結局現状維持のまま政府内の派閥争いは収まった。
 派閥内勢力での反乱があったのを斎は勿論知っている。その時斎は反乱を抑える為に戦っていたのだから。
 だが、例え水波が首謀者だったとしても、反対勢力側の首謀者になるはずがないと水波の頭脳を知っているからこそ、経歴を戦歴を知っているからこそ、断言出来ることだった。

 あの時、斎が鎮圧に戦っているときにわかっていたことがある。それは反対勢力に勝ち目がないということ。反対勢力と、こちらの圧倒的な差は兵力の差だった。だからこそ、斎は反対勢力に勝ち目がないことを知っていた。負けるとわかっているのに、水波が反対勢力の首謀者になることもないだろうと。仮に水波が首謀者だとしたら、兵力で劣っていても頭脳を駆使してもっと出来ることがあっただろうが、斎は鎮圧している中、その“策略”を感じることはなかった。だからこそ、水波ではないと断言した。


「嘘じゃないよ。……そっか斎はそこまで知らないのか。あの時政府側にはあって、反対勢力側になかったものはなんでしょうか」

 それは水波からの謎かけ

「……?」
「なんだそれは」

 斎と烙は二人で疑問符を浮かべる。

「簡単。玖城家当主が、政府側についたからだよ」
「!?」
「玖城家当主が相手じゃあ、天才軍師ともてはやされていようとも、僕に勝ち目があるわけないじゃないか、こっちの作戦があちら側に漏洩しまくりなんだからさ。だから、僕たちは負けた。納得できた?」

 全てを信じるわけではなかった。けれど、信じられない要素がないわけでもなかった。
 それだけ、玖城家の存在は大きいから。
 四大貴族、玖城家は情報を司り、その一族の血によりあらゆる情報を網羅する力を持つ。玖城家の前では、隠し事等意味をなさない。


 いくら、天才軍師だろうが、一人で心の中で作戦を決めていたのならまだしも、仲間とともに戦うのなら、その作戦を心の外で伝えなければならない。そうなると、玖城家には情報は漏洩してしまう。
 だから、負けた。そう言われたら、納得せざるを得ない部分も多々含まれている。


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