T 「……水波、白き断罪に罪人の牢獄の情報を売ったって本当?」 「いきなり単刀直入だねぇ」 水波は笑顔を崩さない。斎は、前置きは不要と一気に話しかける。元々この男に対して、前置きは不要だった。 「白き断罪は地理を詳しく知らないはずの罪人の牢獄について詳しく知っていた。それは何故?」 「さぁ」 「それは、事前に水波がここの情報を漏らしたんだよな? どのような手段を使っているかはわからないけど」 「なんで僕だと思うの? 誰かにそう言われた?」 なおも笑顔の水波。だが、それが逆に胡散臭さを醸している。 斎には確信があった。雛罌粟から聞いた話しから、ではない。雛罌粟の話を聞いたからこそ確信できたのだ。 「君なら可能だから」 「どういった意味かわからないよ、斎ちゃん」 肩をすくめる水波。水波自身からは一切語らないと判断した斎は、確信を得た最大の理由を、恐らく雛罌粟は知らない理由を。 雛罌粟は、あの時こういった 『情報を漏洩したのは、第三の街支配者水波だろうと、我は思ってい』 その瞬間、斎の中でバラバラになっていた糸が全て繋がった。 しかし、その理由を誰にも言わなかった。最も言わなかった処で、泉は最初から知っていたのだろうが。 「わからないわけないでしょ? 第三の街支配者水波……否。元軍人“天才軍師水波”なら、情報を白き断罪に漏洩させることなんて、容易いことじゃないの?」 水波の笑顔が消えた。 「そっかそっか、斎ちゃんは知っていても不思議じゃないか。元白き断罪第三部隊“白蓮”所属、符術師“遙峰斎”。それに、同じく風刀士“久我烙”」 水波の普段纏っているお茶らけた雰囲気は何処かへ消え去っていく。 その姿は、斎にとって初めてみるものではなかった。以前一度だけ、水波と国で遠くから見た事があったが、水波はそのことを知らない可能性が高い。一度一軍人として水波の指示で動いたことがあった。その時の雰囲気だ。 斎とて罪人の牢獄で出会った水波と、あの時出会った軍師の姿が重なった事はなかった。 「やっぱり、白圭に情報を漏洩したのは、軍師だったんだね」 「うん。正解」 口調は普段と同じなのに、雰囲気が違うだけで、人を恐怖に陥れることが出来るだろう、そんな雰囲気。口調と雰囲気が一致しない独特の空気を創りだすだけで、水波の印象は百八十度変わる。 「何故」 「恨みを抱いている人間ほど、扱いやすいものはないから、それだけだよ」 [*前] | [次#] TOP |