零の旋律 | ナノ

第参話:密告者


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 時間は少し前に遡る。
 斎と烙の二人は第三の街へ向かって走っていた。正確には斎の使った風属性の術の効果で通常よりもかなり早く第三の街へ辿り着く事が出来る。

「……ごめんね、烙。俺の我儘につき合わせてしまって」

 斎が勝手に烙の幸せを願い、一人で行動した。その結果が裏切りであり、今であるのなら、斎は烙と一緒に行動をしたかった。そんな身勝手な思い。けれど、その身勝手な思いに縋るしかなかった。

「相棒じゃないのかよ」

 斎の思考とは裏腹に、烙はあっさり何でもないように答える。

「例えお前が俺を置いて行くと言っても、俺はついて行く。決まっているだろ? それぐらい。じゃなければ何の覚悟があって白き断罪を裏切った? 裏切ると決めたあの日、とっくに俺は覚悟を決めたんだ」
「……有難う、烙」
 ――身勝手な俺についてきてくれて、相棒と呼んでくれて

 第三の街中へ入る。斎の術がなければ、まだ半分も進んでいなかっただろう、烙の心境としては斎に負担をかけたくなかった。しかし時間的猶予はない以上、斎の術に助けられるしかない。
 烙も術の中では風属性を最も得意としている。しかし、他の術と比べて場合であって、実力は斎の足元にも及ばない。

「……何だ此処は」

 第三の街に云いようの無い不安を烙は覚える。何を、と問われれば明確に応える事の出来ない不安。
 何かが、他の街とは逸脱していた。

「此処は第三の街。水波が支配する街。……他の街とは違うよ。何せ、此処は術者の集まりだからね、不気味な雰囲気はどの街にも負けないよ。……此処には主に、自らの研究によって罪を犯した人、とか研究者、術者が結構いるから気がついたら怪しい、異質な雰囲気が出来ていたんだよ」

 斎の説明に、この場所は異質者が集まって出来た街だろうか、と烙は考える。

「何とも言えないな」
「住めば都かもしれないけど、同じ術者でも、俺はこういったこと住みたくないなぁ……」
「中は案外安全で、いい場所ですよ?」

 斎と烙の前に現れたのは、赤毛をおかっぱで切りそろえ、黒い瞳の周りにはメイクか刺青か黒い模様が施されている。第三の街支配者水波につき従う少年――紅於(こうお)
 一瞬感じだ不気味さを覚える気配と共に現れた紅於に驚く斎と烙だが、紅於は特に気にした様子もない。

「赤とか、おどろおどろしい建物が多いからといって見た目で判断するのは感心しませんよ。それよりどうしたのですか? 珍しいですね。貴方が街に来るなんて」

 第三の街には滅多に訪れない斎を紅於は不思議がっていた。

「ちょっと用があって。水波はいる?」
「水波さんですか? 自室に籠っていると思いますよ」
「水波に話しがあるんだ」
「一応どんな話しですか?」
「それは……水波に直接話したいんだ」
「わかりました。案内しますよ」

 斎の曖昧な言葉を言及することなく、紅於は水波の自宅へと向かう。
 水波の自宅は第三の街中心部にある、他の建物とは一線を画する広大さを誇る。
 赤黒さで統一されていて、一見すると趣味が悪い以外なにものでもなかった。その中の一室に通される。
 そこは、不気味なほど一面に蓮の花が咲き誇っていた。
 どういった原理かは不明だが床全体に術が施されているのだろう。陣の模様が、蓮の間から見え隠れしている。

「やぁ、どうしたの?」

 何時も通りの笑顔で水波は二人を迎え入れる。

「じゃあ、私は用があるので失礼します」
「いってらっしゃーい」

 紅於は、すぐに底から出て行った。
 ――興味ないんですよ、昔ならともかく今ではね
 紅於の黒い瞳に野心が宿る。


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