零の旋律 | ナノ

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 悧智は拳に術を付加して接近戦を挑む。対して雛罌粟は結界で悧智の攻撃を悉く防ぐ。

「いつまで、そうしていられるかな?」

 不敵な笑み、絶対的自信と余裕が悧智から感じられる。

「我をなめるではないぞ」

 元々結界術に長けている雛罌粟だ、防戦一方になることは別段珍しくはない。そして、結界が破られる事も滅多になく――雛罌粟が負けることは殆どない。

「いつまで、そういってられるか」

 それでも、悧智は余裕の態度を覆すことはしない。
 接近戦での攻撃を繰り出す悧智に、雛罌粟はその一つ一つに結界を張っていく。

「俺も、術者だからな」

 悧智は結界を破る術を付加し、攻撃を加える。結界にひびが入るが、破られてはいない

「何!?」

 ひびだけでは雛罌粟に攻撃を与える事は出来ない。しかし何れは破られるだろう。

「……お主。我の結界の術式を分析しておったのじゃな」

 雛罌粟の結界術は、斎の使う結界術とは系統が違った。斎すら知らない独特の結界術は雛罌粟が罪人の牢獄に行く前にいた土地独特のモノ。それに加え、結界術の腕前は罪人の牢獄で右に出る者はいない。
 だが、悧智は何度も雛罌粟に結界術を使わせることで、攻撃しながら術を分析していた。結界の属性とは反対の属性をぶつけ合わせることで、術の効果を相殺させ破ろうとしていた。
 悧智の高度な腕前に流石の雛罌粟も焦る。まさか短期間でこんな事が出来る術者と出会うとは思っていなかった。いるとすれば――魔術の総本山と呼ばれる雅契に連なる実力者くらいだと思っていた。

「俺を、ただの術者だなんて思わない方がいいぞ。これでも白き断罪第二部隊を預かる隊長の身だ。むざむざ捕まった間抜けな罪人と同等に見るなっ」

 悧智の術を扱う威力が増す。雛罌粟は二種の術を併用していると、分析した。
 榴華の紫電と同様、攻撃の威力を増す付加系術と結界を破る術。それらを同時に拳に纏わしている。
 術を扱う際の詠唱は全て破棄されている。それなのに、この威力は並大抵な術では防ぎきる事は不可能だろう。雛罌粟はすぐに、この男は自信に見合っただけの実力を兼ね揃えていると実感する。

「…………」

 雛罌粟は思案する。この姿では、体術を扱った処で非力な攻撃は相手に決定打を与える事は出来ない。
 かといって結界術を扱う雛罌粟には豊富な攻撃手段があるわけではない。
 生半可な結界で相手を捕えた処で、悧智の実力では容易に結界を破るだろう。
 悧智の蹴りが容赦なくやってくる。雛罌粟は結界術を張るが、結界術の乱用で雛罌粟の術を分析しきった悧智はその結界を破る。

「なっ!」

 雛罌粟の鳩尾に入り、小柄な身体は後方に吹き飛ぶ。
 唯の蹴りではない、攻撃術が付加されている。

「姉様!?」
「姉様!!」

 蘭舞と凛舞は舞と戦闘中にも関わらず、雛罌粟の方を向いて叫んでしまう。

「よそ見厳禁!!」

 その隙を舞は見逃さない。舞の投げたリングの刃が蘭舞の腹部を掠める。


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