V 「では、いきっまーすよ?」 柚葉は外見に合わない身の丈程ある槍を構え――朔夜に向かって突進する。 「うげっ!」 接近戦が苦手な朔夜は後ろを向いて一目散に逃げ出す。 追う逃げる追う逃げる 鬼ごっこの始まり 「オイ」 その光景に、敵味方問わず、思わず突っ込みたくなる。 「やれやれじゃの」 雛罌粟は呆れながら帯で留めている扇子を取り出し、扇子の方向を朔夜へ向ける。 それと同時にぱっと扇子を開く。開いた途端に朔夜の周りに赤い光が現れ、四方へ広がる。柚葉の槍を防ぐ。 「げぇ、結界ですね? 先に術師から殺すのが、定石ですよね」 柚葉はただ逃げるだけの朔夜を標的から外し、見た目は自分より遥かに幼い雛罌粟に向かう。 外見が少女だとしても油断は禁物。何故ならその少女は罪人の牢獄第二の街を支配する支配者。 「むぅ、何故我には接近戦が得意な輩ばかりがやってくるのじゃろうか」 扇子を構えながら迎え撃つ雛罌粟。朔夜と違い接近戦がからっきしなわけではない。 「さて、仕事仕事」 砌は軽く準備運動に、メイスを頭上で二対振り回す。 砌には気になる事があった。それは未だ戻って来ない夢華のこと。夢華が“命令”を無視していなくなるはずがない。何かあったのだと確信していた。 砌は朔夜と郁の元へ向かう。 「裏切り者っ」 悲痛な叫び。舞の標的は実の兄であり、自分たち家族を裏切った蘭舞と凛舞。 「弟よ、その刃を向ける意味、わかっているのか?」 蘭舞の問い。 「勿論、裏切り者を殺す為に向けるんだっ」 「……何も知らない方が、幸せってことも世の中には五万とあるのだよ」 蘭舞の悲しい思い。 真実を知らせるわけにはいかない。 ――俺らが裏切った意味を、知ってしまえば優しい弟は傷つく。 ――傷つくくらいなら、何も知らずに +++ 姿が割れていない悠真は別行動を一人取っていた。律の作戦では由蘭達と一緒に行動するように言われていた。しかし、悠真は悧智の命で第二の街へ侵入する。 「さて、と」 隊長たちが戦っている場所が見える、見晴らしのいい場所を確保する。 +++ 悧智は雛罌粟を殺そうと向かう。その過程で柚葉は悧智に標的を譲る。悧智が動くのならば、自分まで加わる必要はないと判断して。柚葉は、誰も向かっていない篝火の方へ標的を定める。 泉は当然律の方へ一歩一歩近づいていく、その過程で律も後ろへ一歩一歩逃げる。 泉は律を一発殴る。その為にこの場所に赴いた。当然手には何も握られていない。 「てめぇ、一発殴らせろ」 「絶対に御免だ。態々痛いとわかっているのに殴られる馬鹿はいるわけないだろ」 「遠慮なく殴るんだ、あたり前だ」 「自分からどうぞ殴って下さいなんていう奴が、いるわけないだろ!」 懐から取り出したはずの拳銃は未使用だ。律にとって泉と郁が唯一銃を向けたくない相手。他の誰かであれば、引き金を引けても、泉が相手では引き金を引けない。 [*前] | [次#] TOP |