零の旋律 | ナノ

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「姉様!」
「姉様!」

 蘭舞と凛舞が同時に叫ぶ。
 現在の蘭舞と凛舞の服装は、六歳外見の少年が着るにはかなりでかい服だった。ブカブカのそれは、自分で踏んで転んでしまいそうな程である。不釣り合いな少年、アンバランスな姿。何故この場にいるのかと思わせる容姿に柚葉は首を傾げた。

「わかっておる!」

 雛罌粟が袖口から数枚の札を取り出し、蘭舞と凛舞に向かって宙に投げる。
 宙を舞い、ゆらりゆらりと落下する。地面に落下した途端、紅い光が迸り紅い陣を描く。それは血のような赤さ。紋様を描く陣の中心には蘭舞と凛舞。
 光は柱となり、蘭舞と凛舞の姿を覆い隠す。光は一瞬迸る閃光となり、散っていく。
 陣の紋様は意思があるかのように終息していく。陣の中心にいた幼い姿の蘭舞と凛舞は何処にもいなかった。年の頃合い二十代中頃、ブカブカだった服装は丁度いいサイズとなった蘭舞と凛舞がそこにはいた。
 二十代中頃の姿が本来の年齢である。

「助かりました、姉様」
「助かりました、姉様」

 二人同時に口を開く。蘭舞と凛舞は、雛罌粟の術で一時的に身体が元の姿に戻るようにしてもらったのだ。そうでないと戦う事が出来ないから。しかし、その分制約もあった。雛罌粟の術は一時的に蘭舞と凛舞に掛けられている術を消すものであって、術の効果が切れれば、この時間帯の姿へ戻ってしまう。
 蘭舞と凛舞の二人は、術の効果が切れる前にこの戦いを終わらせなければならなかった。

「ぎゃあ、たいちょー、なんですかあれ! 今まで小さくて可愛かったこが、急にでかくなりましたですよ!? 吃驚仰天ですよ!」
「ほぉ、驚きだな」

 何故幼い子供がこんな場所にいるのか、疑問に思っていた悧智だったが、蘭舞と凛舞の姿を見て納得する。

「あら、あの双子があぁなるわけね」

 第二の街で見かけた双子と似ていると思ってい砌は同一人物だと理解する。
 悧智と並ぶように柚葉、後ろに控えるのは砌、律、舞の三人。

「……裏切り者……」

 舞が静かに呟く。蘭舞と凛舞に怒りの念を向けながら。

「で、戦ってくれるんでしょうねぇ? 律」

 砌が律に声をかける。非戦闘員を自称し、護身用に銃を所持しているだけ。それが事実だとしても多少なりと役に立たないと困る。第一砌は、焔同様に律が非戦闘員だとは信じていない。

「えっ、俺は今ものすごく逃げたい」
「逃げたら殺すわよ」
「……それも勘弁願いたいんだが」
「我儘は受け付けないわ」

 メイスを軽く一回転させる。その表情は笑顔。律は心中で、何故此処にいる面子は皆笑顔が怖いのだろうかと悪態をつく。ため息をついてから、渋々懐から拳銃を取り出す。

「それで宜しい」
「どうなってもしらねぇぞ……」

 砌はメイスを地面に置く。


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