零の旋律 | ナノ

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「次に陽炎は、まぁーひと言でいうならパシリ?」
「ちょ、パシリはないだろ」

 烙の突っ込み

「悧智の性格はあーんなんなんだけどさ、実績自体は高いんだよね。あっあんな性格だから実績も高いのか。えっと白蓮とは反対で主に術者が多いのが陽炎の特徴の一つで、政府の揉め事処理とかが多いんだよね。で、最期の春蘭は諜報を得意とする部隊って感じだよ」
「かなりアバウトだな」
「一気に説明しちゃう必要もないでしょー。朔が今関わり合うのは、白蓮と陽炎だけだろーし」

 そもそも桜花と春蘭は滅多な事がない限り進んで動く事の立つことのない部隊だから、今回の事には関係ないだろうと思い斎は簡単にしか説明しなかった。

「で、結局それと、何が関係あるんだ、今回のは」

 篝火も朔夜同様、斎と烙二人だけで行きたいと言った理由を問い詰める。

「俺は……その五年の行方不明だった時期に何かがあったんじゃないかなって思っている。だから、俺はその真偽を確かめに行きたいんだ。元白き断罪白蓮の――白圭の部下としてね。そしてそこで春蘭が出てくるのは春蘭が諜報の分野に特化しているから」

 五年前に何故白圭はボロボロになって帰ってきたのか、行方不明だった時期に白圭が一体何をしていたのか、それらが斎は知りたかった。知れば、白圭の今回の動機の一部が知れる気がしたから。根本にあるのが、家族が殺されたことだとは知っていても。
 それだけなら、白圭は五年物年月をかけないで、すぐにでも罪人の牢獄を攻めることをできたはずだ。
 なのに、なぜ五年もかかったのかを斎は知りたかった。
 自分に優しく、特には厳しく接してくれた白圭のことを。
 その真相を知りたかった。元白き断罪の、白圭の仲間として。

「……気をつけろよ」

 それだけを篝火は言う。朔夜は驚いた顔で、篝火の方を見る。篝火が了承するとは思っていなかったからだ。だが――斎の真剣な表情を見て決意を固める。斎が決意したのなら無理に引き留めないで背中を押して上げようと『仲間』だから

「……重傷でも元気に戦いへ赴くようなやつだから、問題ねぇか」
「早々、俺って見た目ひ弱に見えて実は結構がんじょー」
「見た目も頑丈だ馬鹿」
「えー、少しは心配してくれたっていいじゃないのー」
「その心配を無駄にするような行為しかしてねぇのは、どこのどいつだぼけ」
「王子様なんだから、少しは口調に気をつけようよ」

 いつも通りのやりとり。何一つ変わらないやりとりがされる。

「……まぁ、我の事実が事実なら、紅於が協力してくれるだろう」

 キリがないと思った雛罌粟は二人の会話に口をはさむ。

「あーそっか紅於ちゃんもいるしねー」
「紅於?」

 烙が聞きなれない名前に首をかしげる。

「紅於ちゃんは、水波の下につく部下だよー。十四歳なんだけどね、賢いし強いんだ」
「そんなに幼いのにここにいるのか」
「まっ人生いろいろだよ烙」
「あぁ」

 簡潔な斎の説明に満足した烙は、それ以上紅於のことについてきこうとはしなかった。
 此処にいる彼彼女らの罪を烙は知らない。何をしてこの地に堕とされたのかを知らない。
 何処か真っ当さを感じさせないが、それでいて“罪人”と呼ばれる“罪人らしさ”も感じさせない。


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