零の旋律 | ナノ

V


「さらに、我に思うに白き断罪は罪人の牢獄の内情に詳しすぎると我は思う。街によって立地条件も違えば、特色も違う。それらを白き断罪がそう簡単に知ることは不可能だ。だからこそ我は何処かに内通者がいるのではないかと疑っているのだ」

 疑えば全てに納得がいった。雛罌粟にとって守るべき対象は第二の街。その対象を壊すというのであれば、雛罌粟は容赦しない。大切なものを壊させない為に。守るものがあるから雛罌粟は戦う。

「で、相手は誰なんだ? 話しの流れからして戯遊や珀露ではないんだろ?」
「あぁ、そうじゃ」
「此処まで話すってことは目星がついているんだろ? 誰だ」

 朔夜にとっても大切なのはこの罪人の牢獄。

「勿論だ、それは――」

 驚愕の瞳で彩られる。
 その事実を否定したくても、否定できない何かがあった。
 力強いそれが。全てが布石としてしき並べられているのならば、これすらも“内通者”の布石なのだろうか。

「もし、それが本当なら……」

 斎が最初に口を開く。確かめないといけないことがあった。

「俺と……烙が真偽を確かめに行く」
「!? なんでだ、皆で行けばいいじゃねぇか?」

 斎の言葉に朔夜は反対する。一緒に行動すればいいのに、何故態々別れる必要性がある。朔夜には理解できなかった。

「大人数で言っている間に、白き断罪はやってくるよ」
「それは……」
「白圭はいつまでも攻めるのを伸ばしたりするようなタイプじゃない。それに今、白き断罪には第二部隊の連中もいるみたいだからね、それを考えると……俺と烙だけでいくのが丁度いいんだよ」
「だからといって!! 雛罌粟のいったことが本当だったら、危ないのはお前らじゃないか」

 大切な友達を失うなんてことがあってほしくない。朔夜が第一王位継承者だとしての何も変わらずに接してくれる友達を二人だけ危険に晒したくはなかった。
 勿論、ここに残っていたとしても安全などではない。安全地帯など、この罪人の牢獄には存在しないことを、朔夜もわかっている。
 それでも、心配なものは心配だった。

「ありゃー、優しいなぁ朔は、明日は大雨洪水警報が出されちゃうよ」
「なんだ、そりゃっ人が心配してやっているのによ」
「だいじょーぶ、大丈夫だよ朔。俺と烙のコンビネーションは凄いんだから」

 明るくふるまう斎、だがそこには僅かだが無理につくられた明るさが出ていた。

「どこがだよ。なんで、そんな作り笑いなんだよ」
「!?」
「何があるんだよ、その気になることが!!」
「……俺が」
「……」
「俺が最後に白き断罪を信じられるか、信じられないかがかかっているんだよ」
「どういうことだ」

 斎の言葉が理解できなかった。それは朔夜だけではなく、泉以外の全てがそうだろう。
 勿論、烙も、斎の言葉が理解できなかった。


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