零の旋律 | ナノ

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 罪人の牢獄を脱出する手段は二つある。一つは最果ての街のさらに奥にある場所に存在する螺旋階段を上っていけば地上に出る事が出来る。
 しかし最果ての街には普段銀髪と梓が控えている為、誰もそこから脱出しようとは考えないし、そもそもそのような手段があることを知っている罪人は極僅かだ。
 仮に知っていたとしても、最果ての街を超える事は不可能に近い。荒れ果てた街――梓が支配する街があるからだ。
 もう一つの脱出手段は罪人が堕とされる場所。罪人の始まりともいえる場所。そこを使えば罪人の牢獄に入ること自体は比較的容易だ。しかし罪人の牢獄に入ることは容易でも脱獄することは容易ではなく不可能といっても過言ではない。
 その為、一度罪人の牢獄に堕とされれば外との連絡手段はなく、銀髪を通すことなく独自に政府と繋がる事は不可能に等しいことだった。しかし雛罌粟は通じている者がいると判断した。雛罌粟が白き断罪が来た当初から感じていた不可解な違和感が、それを確信へ導いた。

「先日判明したことだがの、戯遊と珀露は政府の役人じゃ」
「!?」

 泉以外が驚愕する。戯遊は確かに胡散臭さ満点だったが、罪人の牢獄では別段変っている事でもなかった。しかし政府の役人とくれば別だ。政府の役人であるのならば罪人ではない、何の目的がありこの地へ降り立ったのか。

「その戯遊と珀露が先日何ものかに鋭利な刃物で殺された」

 そして何故殺されたのか。篝火たちが知らなかった事実を雛罌粟は淡々と告げる。

「……」

 泉は何も語らない。

「我が思うに、戯遊と珀露は何かしらを知っていたのではないだろうか」

 雛罌粟の疑問は泉へと向けられる。

「……」

 泉は何も語らない。だが、それを特に気にした様子はなく雛罌粟は会話を進める。

「……おかしいのだ。我ら罪人の牢獄に始めて足を踏み入れているだろう白き断罪の用意周到さがな」
「白圭は元々用意周到で、手を抜くような男じゃないよ」

 白圭を知っている斎が答える。そこには白圭への信頼が伺えた。
 だが、そういう意味ではないと雛罌粟は首を振る。

「我が云っているのはそういうことではない。お主らも知っているだろう? 街以外での生存はほぼ不可能だということを。だが、白き断罪は街の外に拠点を持っているのじゃろう、しかも術を使い移住地域を造り出していると我は考えている。だからおかしいのだ」
「何が?」

 斎は雛罌粟の言いたいことが分からずに眉を顰める。

「街の外の大地は毒だ。砂の毒が周辺を舞っている。滞在すれば、知らず知らずのうちに体内を毒で冒され何れは死に絶える。それを知っているからこそ、術で造り上げたのだろう?」

 そこで斎と烙はおかしさに気がつく。特に烙は白き断罪に所属していた、ついこの間まで。由蘭が術を使い自分たちが住める場所を造った事は紛れもない事実。そして、その術が解けないように由蘭は何時も他の術を使う時に制限を加えていた。

「……確かに由蘭は術を使って偽りの建物を造り上げていた。勿論結果付きで、白圭からは街へ行く時以外は由蘭の術の範囲外に出るなといわれていた」

 白圭性質と行動をしていた烙は今になって、その不思議さに気がつく。
 知るはずの無い情報を最初から白圭は知っていたと考えるのならば、誰かが手引きしていたとしても違和感も不思議もない。むしろ違和感や不思議が解消されるだけだ。


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