零の旋律 | ナノ

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 散りゆく華
 夢の華と名付けられ
 曖昧な存在を存在意義とされた華は
 他者に必要とされた、現実に存在する華だった
 少なくとも、誰かから愛されていた。

「……夢華をどうするんだ?」

 泉が口を挟む。この場にずっと留まるわけにはいかない。かといって夢華を放置しておくわけにもいかない。泉と夢華がどういった知り合いだったのか、それを知るものは誰もいない。郁さえ知らない。

「……何処か、安全な場所に。そして……華を植えたい。真っ白な華を」

 答えるのは篝火。

「そうだな、それがいいな。俺も植える」

 同意する烙。夢華と一番接点があった二人だ、否定するものはいない。

「……と、なると雛罌粟に頼み場所を確保するのが先決だろうな。街が一番ある意味安全だろ」

 普段なら、特に何も言ってこないような泉の言葉に、朔夜は首をかしげる。

「そういや、こいつのこと知っているような感じだったが、情報屋だから……というわけではない雰囲気だったぞ」

 問い詰める

「……夢華、とあったことはほぼないに等しいさ。ただ、夢華のことを可愛がっている奴とは知っているだけだ」
「夢華を可愛がっている? 砌や焔か?」

 今度は烙から疑問の声があがる。

「いや、違う」
「そうなのか? 可愛がっているってからてっきりそうなのかと思ったが……」
「俺が知っているのは別のやつだ。夢華以外に興味を示さないサディストをな」

 泉からは曖昧な返事が返ってくる。曖昧ということは、泉は全てを話すつもりは到底ないということ

「……そいつって泉のドッペル?」

 朔夜からの言葉。

「いや、違う」

 すぐさま泉は否定する。

「いや、ドッペルだ」

 今度は疑問ではなく断定して答える朔夜。

「いや、あいつ黒くないし。……外見は夢華と似ているぞ」

 その言葉に中身は真っ黒かと判断する。

「ドッペルではない。そして……そうだな、もう一つ、教えておいてやる。砌は夢華を可愛がっているわけじゃない」
「は? どういうことだ」

 烙は首をかしげる。白き断罪にいた時、砌は夢華を可愛がっていた。抱きしめたりしている場面を数度見かけたことがある。それを可愛がっている以外にどう表すのかと。

「……特別サービスだ。砌は、夢華が余計なことをしないために監視していた、だけだ」
「わけがわからないぞ」
「元々……夢華が白き断罪に所属しているのは、夢華の父親である夢毒が原因だ。そして、その夢毒の部下に砌がいる。まぁ、元々砌自身は夢毒の部下でありながら、白き断罪にも所属しているが。……だから、夢華が勝手なことをしでかさないように監視する仕事が砌にはある。だから砌は夢華を可愛がっているフリをしていただけだ」

 語られる事実。泉の口から出る言葉を誰も疑うことはしない。
 ただ、それだけが全てではないことは知っている。
 泉が全てを語ることはしないから。
 それこそ、それ相応に見合った対価を払っていない現段階では。
 だから、泉は結局肝心な部分には何一つとして答えない。特に情報を話しても支障がない範囲内のこと。

「まぁ、夢毒も終わりだな、“あいつ”の手によって、完膚なきまでに叩きのめされるだろうしな」
 ――いや、それ以上に
 ――死ぬことすら許されないか


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