W 「10分だって面倒だよ、ほら夜中とかは物騒で危険じゃないか」 「年中日差しなんてかわりゃしないぞ、つかここは朝昼晩物騒だ」 「気持ちの問題だよ。か弱い女の子を一人道端に抛り投げるというのかい?」 「てめぇは男だろ。第一か弱くすらねぇ」 罪人の牢獄、それは政府が住まう場所の地下深くある空洞のこと。 上に広がるのは、太陽でも月でも雲でもない。自然界のものではない。 ともすれば時間の流れを狂わせるような、明るくないが真っ暗でもない。 人工的な灰色の曇天が広がるだけ。年中。そして曇天でありながら、さらに上に見えるのは国がある大地だけ。 太陽の日差しも月明かりもない。 雨も雪も風も雷も。自然界の流れは来ない。 罪人の牢獄とはそういう場所。 「あぁ……たく、斎に朔夜、流石に本題に入らないと、日が暮れる」 暮れる日もないがと最後に郁は付け足す。放っておいても郁としては問題がなかったが、それはそれで時間の無駄だと判断したのだ。 篝火はまだ安全地帯にいる。 コーヒーを飲みながら現状を唯見守る。 危険地帯には決して近づかない 「そういえば、そうだね。朔夜をおちょくっていたら夜になりました、じゃ流石に困るしね」 「おい、待て」 「朔夜、私の話をきいていなかったのか? さっさと話を始めるってんだよ」 「ちっ……さっさと座りやがれ」 六人用テーブルには、そのまま六人分の椅子が並べてある。普段は二人暮らしだが、斎や郁など来訪者のために六人用テーブルが置いてあるのだった。 斎と郁は隣通しに朔夜とは向い合せになるように座る。 此処には、本来もう一人、人が来るはずだったのだが、来るはずはないと誰もが思っているため気にするものはいかなった。時刻が朝だからだ。 三人がようやっと椅子に座ったのを見て、安全地帯から篝火は動いた。 手には御盆を持ち、御盆には四人分の紅茶が入れられている。 流しには綺麗に洗われているコーヒーカップが一つ。 「はい、おまたせ」 紅茶を三人に順番に篝火が配る。 その途中、郁に配っている時に郁は篝火に耳打ちをした。 「おい、お前はまた、傍観していたな?」 「君子危うきに近寄らず。まぁ、これは泉に適用したほうがあってそうだけど」 「お前は……また」 「安全が一番さ」 「そうだな……今は安全じゃないしな。白が」 篝火は紅茶を配ると、自身も席につく。 本来ならお菓子の一つや二つでも出すところだったが、先ほど朝食をとったばかりでお腹が一杯なため省いていた。 [*前] | [次#] TOP |