第六話:救う白き華 「夢華夢華!!」 何度呼んでも叫んでも、二度と返事はこない。 それでも名前を呼ばずにはいられない。 後悔ばかりが押し寄せる。 篝火は夢華をぎゅっと抱きしめる。優しく、静かに 「……お前は、二つを同時に助けたかったのか? そして――」 泉は呟く。誰に聞かせるわけでもなく。 ただの独り言。 様々な情報を網羅していたとしても、わかるのは何があったかで、何をしようとするかであって、人の心まではわからない。 「夢毒の手に苦しむ、“あいつ”を救うことと、篝火を助けること……それはお前が命を使ってまでのことなのだろうかな」 答えは、誰もわからない。 「悧智っ!! 仲間をお前は!」 烙は激昂に駆られる。夢華は、壊れかけていた自分を繋ぎとめてくれた存在で、夢華は仲間。その仲間を、仲間であるはずの悧智が手をかけた。その事実を許すことなど到底出来なかった。例えそれが裏切った自分がいえる立場ではなくても、例えそれが身勝手な理由だとしても。 「ふん。知らないな、そんなもの」 夢華がいなくなることで、悧智の術は復活する。当然斎や朔夜の術も復活する。 「まぁ、お前らを纏めて殺したいとこだが、そろそろこちらも時間がやばいからな、撤退させてもらう」 「ふざけるな!!」 「同感っ」 斎は短剣から札に武器を変える。数枚の札を一気に投げる。真っ直ぐ、鋭利な刃物を投げているかのような鋭さ。烙の真っ白な刀は、烙自身の血が付着して、一部を白から赤に変えながら斬りかかる。 烙の横から刀を構えた郁も加わる。 「……確かにやっかいな相手だよな、お前ら。だがな、逃走手段はいくらでもあるんだ」 「させるか!!」 斎が悧智の周りにさらに札を投げつける。札は悧智の四方を囲むように展開する。札に描かれている文字が淡い黄緑色の光を帯びる。逃走術で逃げられなくするため、悧智の内側に結界を張ったのだ。 しかし悧智は嘲笑う。 「姑息なそんな手段が、俺に通じるわけないだろう」 悧智は斎が展開した結界の中で逃走術を唱える。悧智の身体が一瞬だけ淡く光ったかと思うと、次の瞬間にはその場に、悧智の姿は何処にもなかった。 「逃げられたっ!!」 斎が悔しそうに地面を叩く。自分が張った結果を最初から存在しなかったように破られるとは予想していなかった。斎は嫌でも悧智自分の間にレベル差があることを思い知る。 [*前] | [次#] TOP |