T そして、それは静かにオワリを告げた。 「結局、君にとって僕はそれだけの存在なんだね。僕の思いは報われないんだね。けれど僕は君を恨まないよ。僕は君を――愛しているから」 そうして、相棒は篝火の元から立ち去った。 篝火はどうしようもない喪失感と怒りで震えていた。 「何故、大切だと認めていながら、否定する?」 夢華は声をかける。このままだと壊れてしまうから、篝火が。あの日倒れていた自分を無条件で助けてくれた篝火に壊れてほしくなかった。 「……」 「君は、大切だと認めているよ。愛していると認めているよ。なのになんで、それを否定する? 怖い? 愛してしまうことが、大切だと認めてしまうことが、怖い?」 夢華の言葉は篝火に届く。痛切に 「愛しているんでしょ」 篝火はそこ言葉を聞いた途端、部屋から飛び出す。 「自らの命を粗末にすることを、それをあの人は望んでいないよ!」 そして、篝火は自暴自棄に走る。 夢華の言葉は届かなかった。 篝火は戻ってこなかった。 夢華は、楽しかった日々を思い出しながら、篝火たちの家であることを決める。 数日後、扉を乱暴に開けようとする音がする。 「……」 施錠していたのを開け。扉を開く。 そこには二名の憲兵がいた。 「凌叉篝火の家はここか?」 「……誰ですか?」 「惚けるな? ここは凌叉篝火の家だと調べは付いている。先日国家の宝を盗もうとした愚か者の名だ」 「それ、前の住民じゃないんですか、今は僕が住んでいるんです」 夢華は憲兵に対して丁寧に、但し僅かに怒りを含め答える。 「……名は」 「雪月夢華」 「雪に、月に夢の華か。本名ではないな?」 憲兵の一人が、こいつも凌叉篝火の仲間だろうと踏んで、一歩近づく。犯罪者の仲間なら一緒に捕まえてしまうだけだ。 「ん? 待って下さい。何処かで雪月の名をきいたような?」 もう一人の憲兵が何かを思い出そうとして悩む。 「何だ、早くしろ」 早く、雪月夢華を捕まえたいという欲求があるのか、苛立ちを隠さない。 「あ!」 そして、思い出す。 しかし、思い出したところで、説明をする前に全てを夢華が告げる。 「僕は、雅契家の分家の一つ雪月家。雪月夢毒の息子。夢華、僕の身分は雅契家当主、雅契廻命が保証してくれる。疑うなら、僕の身元を正式に調べてもらっても構わない」 断言する。有無を言わさぬ口調で。 「が、雅契家の……分家っ」 夢華を捕まえたかったはずの憲兵は後ろに数歩逃げるように下がる 「やはりっ、最近分家の中でも力をつけてきている一族……雪月……」 雪月の名を知っていた方も、事実に戸惑いを隠せない。 「わかったのなら、さっさとここから退去して!」 悲痛な叫び声にも気づかずに、憲兵たちは逃げ帰った。 扉を閉め、室内に入った夢華は、扉を背にして座る。 「これで……よかったんだよね、篝火……」 大切な思いで詰まったこの部屋を、憲兵たちが土足で踏み込み荒らすことをしてほしくなかった。その思いがあったから、夢華はどんな手段を使っても、この部屋を、家を思いでを守ろうとした。 いつか微笑んでほしいいから。 ――例え、雪月の名を使っても、僕は ――安らぎの日々を、現実を忘れさせてくれた君たちにお礼がしたかった ――ごめんね、そして有難う [*前] | [次#] TOP |