第伍話:認められなかった過去 あの日、夢華とであったのはある雨の日だった。 篝火はある貴族の屋敷から宝石を数個盗み出した仮未知の事。一向にやむ気配の見せない雨に苛立ちを覚えながら街を歩いていると、そこに白があった。 現実から乖離したような白に目を引きつけられた。 白は人だった。力尽きているのか、その場に倒れて動かない人だった。 気がついたら篝火は、その場所へ足を向けていた。 首元に手を当て、脈を測る。脈はまだあった。 思わず、篝火はその人を助けていた。勝手に身体が動いていた。 もしかしたら、現実と違う何かを夢見たのかもしれない。 「はぁ!? 篝火。なんで猫だけじゃ済まなくて今度は人を拾ってくるの!? 馬鹿?」 同居人兼相棒は篝火の行動に呆れた。 それでも、相棒は元の場所へ戻してこいとは決して言わなかった。 篝火のことを分かっているから。 「なんか、雪を欺くような肌を持っている子、だね」 「ありがとう」 「いえいえ、お礼を言われる筋合いはないよ」 ――微笑んだその顔を俺は忘れない 「ここ、どこ!?」 三日間、白は目覚めなかった。そして突如目覚める。 勢いよく身体を起こして、そのあと、何処か身体が痛むのか身体を丸める。 「お、目覚めたか、名前は?」 篝火がその様子に嬉しそうに声をかける。 この三日間覚める気配が全くなく、下手したらこのまま目覚めないのではと心配していたから、目覚めてくれたことが嬉しいのだ。 「ぼ、僕は夢華。……助けてくれてありがとう」 その日から、夢華は篝火たちの家に暫くの間住むこととなった。 目立った外傷はなかったが、心身ともに疲労していた夢華は暫くの間はベッドから降りて、歩くことすら困難で、最初のうちは、立ち上がってもそのまま力なくして倒れてしまうほどだった。 最初は暗い表情だった夢華も、いつしか篝火と篝火の相棒によって笑うようになった。 篝火と相棒は、夢華が倒れていた“理由”を問うことはしなかった。 言いたくないことは誰しも一つや二つ持っている。 夢華の心が癒えたら、二人はさりげなく問うつもりだった。 「そうそ、笑う門には福来るだよ」 相棒は楽しそうに笑いながら夢華に話しかける。 夢華にとって、現実を忘れてしまいそうになるほど、幸せな一時だった。 [*前] | [次#] TOP |