零の旋律 | ナノ

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 ――何故、大切だと認めていながら、それを否定するの

「馬鹿かっ」
「いい、篝火。これから先悧智の銃弾だけは、受けてはいけないよ。悧智の銃弾には、特殊な金属と液で出来た物質を銃弾に練りこむことで……簡単に言うとね、悧智の銃弾には毒が入っているの」
「知っていたから、俺を助けたのか」
「うん」

 何処までも白く白く真っ白に――羽ばたく翼は優しい涙を零す

「……夢華」

 泉が何処か表情を曇らせて声をかける。その表情はいかなる心意か。夢華はその意図を明確に理解し、一瞬だけ言葉を詰まらせたが、すぐに開く。

「……真っ黒な人……ううん、泉。貴方は世界を見ようとしない。別に世界を逃避しているわけではない、ただ大切な何かが出来たときに、貴方はそれを失ってしまうよ。貴方を大切だと思ってくれる人は、律だけじゃない。“あの人”と同じ道を歩んではいけない」
「大きなお世話だ。いいのか、お前が死んだらあいつは今以上に狂う。それこそ国を滅ぼそうとするかもしれないぜ?」
「なら、貴方に留めてほしい」
「手助けはしても、止めることはしないな」

 残酷でありながら事実を突き付ける。

「うん。わかっている。貴方のその心がそう言っている」
「なら、聞くな」

 冷たく突き放す。

「そんな言い方は!」

 冷たい泉の言葉に篝火は声を荒げるが、すぐに無駄だと判断してそれ以上は何も言わず、夢華を見る。どんなに止血しようとしても、血は止まる何処ろか溢れる一方。

「死ぬなよ」
「……有難う」

 篝火の顔を間近で見ようとして、手をゆっくりと伸ばす。篝火は夢華の思いを感じ取り、顔を近づける。夢華が自分の顔をよく見えるように。
嘗て、夢華は言っていた。殆ど何も見えないと。だから、近づいて相手の顔をはっきりと見たいと。

「これを――カイヤに渡してお願い」

 夢華は薔薇の髪飾りを篝火に託す。そして――有難う
 満面の笑みで微笑む夢華に、篝火は何も言えない。微笑み返すことなんて出来ない。
 事実は残酷に告げる。もう――タスカラナイ


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