T 「篝火、出血が多い早く傷の手当てを」 心臓付近を貫通した弾を泉は冷静に観察する。地面に転がった弾丸は金色に輝いていた。 「……特殊な金属を混ぜて調合したオリジナルか」 一目で、それを普通の弾ではないということを判断する。 「(……ここに朧埼がいたら、……現状は変わっていたな)」 そして泉はもしもを考える。この場にはいない誰かを、この場にいたら変わる先を。 けれど現実には“朧埼”はこの場にはいない。 「夢華、大丈夫か、夢華」 篝火は出血を抑えようとしながら、夢華の名を呼ぶ。 銃を一発浴びただけなはずなのに、急所も僅かだが外している。それなのに血は一向に止まらない。 ドクドクとあふれ出る血。このままでは出血多量で死んでしまうだろう。 焦る気持ちは収まるどころか徐々に強くなっていく。 「なんで血が止まらない!!」 一体どんな銃弾だったのか、篝火は考える余裕もない。 「良かったよ。僕は……篝火を守れた」 夢華の小さな声が聞こえる。聞き逃してしまいそうな小さな小さな声。 「馬鹿が! 守れたってなんだよ、第一、なんで同じ仲間のお前を殺そうとするんだよ、あいつは」 感情的になる。普段から、今にも消えそうな儚い印象を与える夢華が、本当にこのまま消えてしまいそうで怖かった。 「……僕が、ううん。篝火は知らないほうがいい」 「なんでだ!」 「世の中には知らない方がいいことも、沢山あるんだよ」 「わからない、教えろよ」 篝火は叫ぶ。消えないでと消えないでほしい、いつも問いかけてくれた。いつも。 大切な存在を認められなくて失った時も、自暴自棄になった時も夢華はいつも問いかけてくれた。 何度も何度でも。それが今でも心の中に残っている。 自分が捕まった後、夢華がどうしたか知らない。自分の事で精一杯だった。 相棒に対しても裏切ったし、夢華に対しても裏切ってしまった。それでも夢華はあの時と変らずに、恨みも憎しみも向けずに接してくれた。 「……僕は……」 「やめとけ、篝火」 答えようとする夢華に対して、泉が制止する。篝火にそれ以上夢華の事を聞くなと。 「なんでだ? お前は知っているのか理由を――何故」 「……今は理由を問いただすことが、先決なのか?」 冷たく言い放つ。篝火に二の句はつなげない。 「ごめんね、篝火。でも……僕は、篝火を守りたかった」 「なんでだ、なんで」 「悧智の、特殊な銃に当たってはいけないから。ううん。違う、僕が篝火を守りたかったのはね、篝火があの日僕を助けてくれたからだよ。何も考えないで全てを投げ出したいとさえ思ってしまった、あの日、君は僕を助けてくれたんだよ。だから、僕は、君を守りたかった」 ――雨が降りしきる中、誰もが目をくれなかった。街の道に倒れていた僕を、唯一見つけ出してくれて、何処の馬の骨ともわからない僕を、篝火は迷うことなく助けてくれた。僕は、そんな君に何もお礼が出来なかった、現実から目をそむけ、現実から逃避する君に対して、ただ、事実を告げることしかなかった。 [*前] | [次#] TOP |