零の旋律 | ナノ

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 悧智の強さは想定外だった。少なくとも術を封じれば少しは楽になるだろうと思っていが実際は殆ど変らなかった。悧智は術を扱えない分、頭脳を駆使して戦う。悧智は乱戦の中で、相手が此処に移動すれば攻撃は届かない、攻撃出来ないという場所を即座に判断し、移動する。
 隙があれば攻撃もしたが、体術や剣術を得意とする篝火や、郁、烙にとってその攻撃は見切りやすく容易に交わされる。
 そこに元々接近戦のみに長けていた夢華が加わる。悧智からの攻撃も、篝火以上の身こなしの軽さで安々と避ける。

「悧智、僕は……負けたくない」

 第三部隊隊長の白圭が剣術や武術にたけた格闘系なら悧智は間違いなく術者。
 悧智に致命傷を与えることはできないが、時間がたつにつれ、最初より徐々に有利な方向に変わってきた。悧智は接近戦を得意とする集団に囲まれ、思うように攻撃が出来ない。

「ぐわーあ!! 面倒!」

 悧智は憤る。これ以上時間をかけては、自身も勝手に外出したことが、露見する可能性も高くなっていく。それだけではない、夢華を殺そうとしていることも。
 そうなれば、悧智が見た限り夢華を可愛がっている砌や焔は黙っていないだろうし、仲間意識の強い白圭や由蘭も当然黙っていない。
 それに仲間を殺したとなれば柚葉や悠真も味方についてくれるとは限らない。そうなれば、どう転んでも不利になるのは悧智自身だった。
 それだけは避けなければならない。

「そうさ、元々こいつらに用事はない。ならばっ!」

 悧智は、懐から拳銃を取り出す。
 そして。それを夢華に向ける――

「夢華!」

 悧智の攻撃手段を奪おうと篝火は悧智に向かい手を伸ばす。夢華を死なせたくなかった、夢華を失いたくなかった。それだけの思いで、それが悧智の思惑にはまることになるとは知らないで。
 悧智は予想通り篝火が向かったきた瞬間に微笑んだ。拳銃が移動し――篝火へ向けられる。
 静かな空間。時がとまったかのようだ。
 しかし、時は止まらずに確実に流れる。
 そこで――真っ赤になる

「夢華!?」

 ゆっくりと倒れる。篝火に向けられた拳銃、篝火がそれを認識するより早く、夢華が動く。篝火以上の身軽さを持つ夢華は、篝火を咄嗟に横に弾き飛ばす。それが悧智の作戦。怜悧な頭脳を持ち、乱戦の中で組み立てた夢華を殺す最も確実な方法。
あわよくば罪人も殺そうと考えていただけで、本来の目的は夢華を殺すこと。ならば欲をはらず夢華を殺すことだけに集中する。
 夢華のトンファーが地面に音を立てて転がり、夢華は力なく地面に倒れる。
 篝火が慌てて倒れた夢華を自分の方に抱き寄せる。泉が僅かに目を瞑ったが、誰も気がつく余裕がない。


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