零の旋律 | ナノ

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「たく、何で無駄にチームワークがいいんだよ、イラつく」

 斎が普段隠し持っている拳銃は雛罌粟に取り上げられている為、それ以外の武器――短剣を袖口から取り出し前衛に加わる。仮に拳銃を持っていても、斎は短剣を選んだだろう。
 人並み以上に銃が扱えるからといっても、銃を専門にしているわけではない。乱戦の場で下手に発砲して仲間に当たる可能性が零とはいえないからだ。一度発砲してしまえば、その軌跡を変える事は出来ない。

「悧智って、本当に罪人が嫌いなんだね、なんで?」

 斎が声をかける。白き断罪の隊長たちの中で、最も政府から信頼されていながらも、悧智自身は罪を犯していそうな性格をしているし、実際に裏では罪を犯しているのだろう。

「裏切り者に答える義理はないと思うけどな」
「裏切り者、だからこそ答えてほしいと思うんだけどな」
「……馬鹿らしいからだよ、罪を犯すのに、俺がとやかくいうつもりもないが、俺が許せないのは、みすみす捕まり、さらには牢獄に捕えられ、それでもなおも生き恥をさらしながら生きている罪人が嫌いなんだ」

 悧智は斎の問いに答える。
 それが悧智の罪人を嫌う一つの理由

「あー、なるほどね。清廉潔白ではないと思っていたけど、やっぱり真っ黒か。悧智、人の知らないところで、結構犯罪をしているでしょ」
「世の中に清廉潔白で、純粋無垢な奴等存在しないさ。それは単純に世間を知らないからだ。知ってしまえばいかに、この世界がいかに黒で覆われているかなど、一目瞭然だろう。その黒を知った後も、なおも人は清廉潔白で等いられないさ。ただ、気付いていながらも、人は誰もが自分に関係のないことだと、見て見ぬふりをするだけ、それだけだ」
「まぁ、その意見には同意だね。でもさぁ、悧智が来たりなんだり、罪人の牢獄ってここ最近で色々ありすぎ。虎穴を逃れて竜穴に入っちゃう感じだよね」
「全くだ」

 斎の言葉に篝火が同意する。どうしてこうもこうも厄介事は立て続けにやってくるのだろうかと。
 白き断罪がいる以上、罪人の牢獄は常に滅亡の危機に瀕している。
 白き断罪は確かに“正義”なのだろう。それを篝火たちは知っているし否定するつもりもない。自分たちはどんな理由であれ、なんであれ、罪を犯したことは紛れもない事実。
 それで誰かが苦しみ嘆き悲しんだのも事実で、憤りを感じたとしても不思議はない。
 けれど、だからといってみすみす殺されるような性格でもなかった。
 そう、この罪人の牢獄は。

「罪を犯すことに、俺は特に感慨は抱かないが。ただ、それにより身を滅ぼすのが、どうしようもなくいらだたしいだけだ」

 理不尽な言い分をぶつける悧智。
 悧智にとってはそれが事実。本当の理由を別の理由で塗りつぶし、本来の理由に気がついていないだけ。
 別の理由が何時しか本当の理由に取って代わった。白圭たちとは明らかに目的が違った。だからこそ、悪事を働いているのを嫌ったり憎悪したりするわけではない、悧智自身も手を染めていること。


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