V 「で……そろそろ本題に入りやがれ」 朔夜は要件もなく斎と郁は来ないと判断して来た理由を問う。勿論要件なく遊びに来ることも多々あるが、今回は予め篝斎たちがやってくる、篝火は言った。ならばそれ相応の理由があるはず。 「今晩泊まるから宜しく」 語尾に音符マークがついても不思議じゃない声色で、さりげなくウインクまでする斎。 「……それは、本題でもなんでもないよなぁ」 声のトーンが下がり、椅子から立ち上がって椅子の手すりに朔夜は手をかけた。 椅子くらいなら腕力が強くない自分でも、ギリギリ攻撃手段として用いられる範囲だろうと判断したからだ。 「うん。本題を話した後に帰るの面倒だから、この実は結構広くて人が何人も寝泊まり出来そうな所に泊まるのだ」 朔夜を見ても、微動だにしないで斎は話す。むしろ嬉々としているようでもあった。 態と自分を煽っていることを朔夜は理解しながらも、その挑発にのる。朔夜は挑発に乗りやすい。 「一回ぶっ飛ばしてやろうか」 椅子を投げるのをやめて斎自身を手か足で殴りたくなったが、朔夜は斎には近づかない。 それを見た斎は笑みを浮かべる。 「ぶっ飛ばすっていっても朔夜は腕っ節に自信ないしね」 ぐっ……と声を微妙に漏らして、朔夜は拳を強く握りしめる。 斎の言葉が事実で言い返す言葉が見つからないのだ。 この中で一番腕っ節がないのが朔夜であった。 斎は戦闘では遠距離を得意とする術師ではあったが、朔夜とは違い案外接近戦もこなせる。 この大地では力なければ生き残れはしない 何故なら罪人の牢獄 罪を犯した人が住まう大地だから 朔夜は手を前に掲げた。腕っ節には自身がないし非力だが、朔夜は斎と同様に術師であった。 斎の物言いに一発くらい何か攻撃をしないといけないような気分になった。 挑発に乗ったのもあるが、何もしないで引き下がるのは負けを認めるようで、嫌だったのだ。案外負けず嫌いの節があるのかもしれない。 「げっ……ちょっと、待て待て。俺が悪かったからこんな建物ないで物騒な術を放つな!」 「なら最初っから突っかかってくんじゃねぇ」 「最初に突っかかってきたのは朔夜じゃないか。理不尽な!」 「帰るの面倒とかいいつつ、お前の家は、ここから徒歩何分だ!」 「10分」 「帰れ!」 朔夜の怒鳴り声が部屋に響く。 それを相変わらず篝火は安全地帯と言う名の台所から眺める。 本日も平和だ。と思わず罪人の牢獄で思ってしまう。 郁は毎回毎回よくやるなと、遠目で見ている。 誰も止めない。止める必要も特になかった。 [*前] | [次#] TOP |