W 「――!? なんだこれは」 僅かな違和感は徐々に強くなっていく。消え去る違和感。悧智は突然の出来ごとに不気味さを感じる。 「ちょ、これって」 「まじかよ……」 斎と朔夜もすぐにその異変を感じ取る。 「これは」 烙は以前、夢華が眼帯をとったときに起きた現象と全く同じ感覚に陥る。 普段術を使わない篝火や郁も同様だった。体内から“何かが”消え去るような独特の感覚が周囲を支配する。 「これは一体なんだ、夢華」 ――これでは、術が使えない 「僕の右目には、術を全て無効化する力があるんだ。だから僕の前では――術など無意味」 夢華の返答。 夢華の右目には、特殊な力が施されていた。それは生まれた時からその赤い瞳は術を無効化した。術を存在しないものとした。思えば、是が全ての始まりだった、夢華にとって。 赤い瞳がなければ、興味深い実験対象へとは成らなかったかもしれない。夢華は時々そう思う。 術を無意識に無効化してしまうこの力さえなければ“あの人”が苦しむ姿を見ることもなかったのだと。“あの人”を傷つけてしまったのは、紛れもなく自分自身なのだと。 「この力は僕には制御出来ない。無意識に発動する。だから僕の周辺にいる人たちは全て無条件でその効果が表れるんだよ」 夢華は律義に説明する。説明したところで、対処法は変わらない。夢華を殺すこと――もしくは再び眼帯で瞳を隠すことだけ。 「そうか、そんな力があったとはな」 得意な術を封じられ、今まで余裕だった表情が一変する。それでも悧智は不敵に笑うのを止めない。 術者であるが故、術攻撃に関して飛びぬけた実力を保有しているが、その得意とするものが封じられてしまえば戦局は一気に不利になるだろう。さらに悧智は接近戦を術でカバーしているのであって、篝火や郁、烙のようにそれを専門としている相手と比べるとどうしても劣ってしまう。 ――だからか 悧智はそこであることに気がつく。無条件で術が使えなくなるのならば、術の発現体である夢華自身もその術の影響を受け、術が一切使えなくなる。 だから夢華は術系統を一切使えなかったのだと。苦手、とか嫌いとかそういった問題ではなく、単純に術が使えなくなるのであれば鍛える意味がないと。体術に重点を置き戦う事が最も効率のよい戦い方だと。 [*前] | [次#] TOP |