零の旋律 | ナノ

V


「流石は、お前が白蓮にいた時は、白蓮で一番の術師だったわけはあるな」
「お褒めの言葉と預かっときますよん。まぁ、今の白蓮なら由蘭だろーけど」

 元々、白蓮には術者が少なく、武道派が多い隊だった。その中で斎と由蘭が唯一の術者といっても過言ではなかった。烙が扱う風属性の術も斎が護身用として教えていたもの。

「まぁ、俺には遠く及ばないな」

 斎が投げた札を白い防御壁で弾き返す。札は斎の方向へ向かう――このまま斎に当たれば斎自身が傷を負うだろう。慌てて相殺しようとした斎だが、その前に黒い物体で札が別方向へ飛ばされる。

「泉!?」

 黒い物体が泉の鞭だと即座に理解した斎は驚きの表情で後方を振り返り、泉を見る。

「そこまで驚き必要があるか?」
「そりゃあ、驚くよー」
「俺が人手なしみたいな言い方だな」
「実際人手なしでしょうが」

 ぶーと、頬をわざと膨らませてみる斎。その行為が、緊迫していたこの状況を緩和させる。

「……夢華、わかっているのか?」
「うん、わかっているけど……」

 泉は夢華に問いかける。何のことか他の人には理解出来なかった。けれど当の本人はその意味を知っている。

「悧智相手なら、夢華、お前が一番適任だろ」
「適任? なんの話を?」

 悧智も知らない。夢華の秘密。
 烙の前だけでは一度、夢華はそれを見せた。

「お前が死んだら、あいつの逆鱗が見えるからな、それが面倒なだけだ」
「そうだね……僕は会わないとね」

 泉の手にはいつの間にか鞭が消えている。

「こっから先、朔夜と斎は出番なしだ」

 意味深長なことを斎と朔夜に告げる。首を傾げ意味を理解しようとする二人だが、すぐに否応なく理解することとなる。

「悧智。僕は……死にたくないから戦うよ」

 治療用の眼帯を夢華は外す。
 ――誰か、僕を視て
 それは、赤
 真っ白な中で真っ赤に咲き誇る朱の瞳
 その瞳に見入られたら、血の世界へ引き込まれそうなほどに、美しく、そして魅惑的でもあった。
 白の中にある唯一の朱。
 赤は無へと返す。
 万物にあり、万物にあらざるものを
 無への世界へと返還する
 ――僕を見つけてくれた人へ


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