零の旋律 | ナノ

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「よほど、罪人に愛されているんだな、夢華」

 悧智が夢華を視る目が、より一層冷たくなる。冷やかに、見下す。

「悧智は、可哀そう」

 夢華の返答。
 それだけで十分だった。
 悧智が攻撃に移る理由としては――

「はっ、俺の何処が可哀そうなんだが!」

 ――悧智は何も気づけない
 悧智は特に武器を所持していないが、篝火のように格闘専門というわけでもない。
 悧智の戦闘は格闘と術を併用して使うもので、用法としては、紫電と合わせて戦う榴華に近いものがあった。しかし、身体全体に紫電をまとわせる榴華とは違い、巧みにコントロールされた術を使い、身体の一部にそれを付加し、攻撃の威力を格段と上げる、というもの。
 勿論、悧智自身には一切の被害がないように調節されている。
 紫電以外の術が苦手な榴華とは違い、本来は術師である悧智が接近戦で戦うことで、榴華とは一味違った戦い方であった。

「ちっ」

 切りかかった烙は、悧智が一瞬で全身にまとった白い光の防御壁によって、刀ははじき返される。
 烙の刀をはじき返した後は、すぐに白い光の防御壁は消え去る。

「防御壁?」
「篝火、気をつけて、悧智は……術を得意とする接近戦術者だから」
「朔夜とは真逆ってわけね」
「うるせぇ」

 夢華の注意と篝火の会話を聞いていた朔夜の文句が耳に入る。
 朔夜は遠距離から雷属性の術を使っているが、それらが悧智に届きそうになると、どういう仕組みなのか、悧智に直撃することなく、悧智の周りに自然と雷が避けた。
 別の場所にでも避雷針があるかのように。

「なんなんだよ、こいつ」

 朔夜が茫然とする。篝火たちが攻撃している間に攻撃したところで、朔夜の雷は悧智にかすりもしない。

「お前達程度の攻撃ならいくらでも見切ることは可能だ」

 悧智は防御する一方ではない。攻撃もしてくる。
 拳に術を併用させ、青白い何かとともに篝火に攻撃をする。
 当たらないギリギリのところで避けると、術の余波を食らい傷つくことが、最初の一撃を交わした時に気がついた篝火はそれ以降は余裕を持って避け余波すら当たらないようにする。最も悧智も巧みに攻撃を仕掛けてくる為、必ずしも余波を避け切れるわけではない。
 それは篝火のみならず、刀を武器としている郁や烙も同様で、悧智の攻撃を刀で受け止めると、刀を伝って術が自身にやってきて攻撃をもろに食らう形になる。
 刀で防御することも出来ず、さりとて傷つけようものなら、その術が刀を伝わって二人に傷を与えるだろう。
 交わすのも攻撃するのも難しい悧智相手に、篝火たちがいくら人数で勝っていようとも有効だを当たえる事は叶わなかった。交わすことが精一杯だ。唯一有効手段だと思えたのは斎の攻撃だった。
 朔夜とは違い、バリエーション豊富な術を扱える符術師の斎は、相手の術のパターンを見極めようとしながら、自身の術を放つ。時折術と術同士で相殺しあい威力を無くす。


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