第参話:白き華 例え世界を敵に回しても 許せないものがあった 例え誰を敵に回しても 大切な人が傍で笑ってくれたらそれだけでよかった 「ほう、第二部隊“陽炎”の隊長――悧智(りさと)か」 泉は声だけで、その主を判明させる。そのすぐ後、突如としてその場に悧智が現れる。何か術を使ったことは明白だ。この牢獄で出会ったことがないはずのなのに、声だけで泉が判断したことに疑問を生じる余地は誰にもなかった。それよりも気になる事があったからだ、泉は隊長とそう言った。それも第二部隊の。罪人の牢獄に来ている白き断罪は白圭率いる第三部隊ではなかったのかと。 「正解」 悧智の瞳には明らかな敵意が含まれている。 「夢華。何故いなくなった」 言葉だけ聞けば、途中で姿が見えない夢華を探しに来ただけに聞こえる。但し、それを悧智の放つ殺気が否定していた。 「悧智こそ、なんで此処にいるの?」 「……夢華、何故白き断罪にいる?」 「――!」 夢華は咄嗟に袖口に隠しているトンファーを取り出し握る。 「貴方は――」 「その辺にしとけば?」 悧智の言葉を途中で遮ったのは泉だった。 「何故――邪魔をする。邪魔をされる筋合いはない」 「忠告しとくけど、夢華を殺そうとか馬鹿な事はやめといたほうがいいぞ、陽炎の隊長」 「何故」 「夢華がお気に入りの、サディストがいるからだ」 理由になっていない理由を泉が述べる。 泉も夢華の事を知っているのかと一同は驚愕する。情報屋としての情報ではない。 実際に存在そのものを知っているということに 「泉……」 「“あいつ”も俺同様、大切な人のためにだったら、手段を選ばないからな」 「……成程。そちらの、ということか。しかし、ならより一層のこと放置するつもりはないな」 残酷なる宣告をする。仲間を、今悧智は手にかけようとしている。 「なんでだ? 悧智隊長。何故夢華を」 思わず烙が口を開く。 殺すのなら自分が第一であるなら、何も違和感がない。自分は裏切り者であるから、しかし、裏切っていない夢華を殺す必要性が一体どこに存在しているのだというのか。 偶々自分たちと話していたから、それだけの理由で殺す意味はないと思っているから。 「俺が嫌いなものを、元白蓮にいたお前なら知っているだろう?」 悧智が嫌いなもの――罪人 烙はすぐさま。その答えにたどり着く。白圭とは別の意味合いで、罪人を毛嫌いしている悧智。 だが、烙はさらに疑問が浮かぶ。罪人を悧智が嫌いなのはわかる。 しかし、そこで夢華を殺すことに直結する理由が皆目見当付かない。 「まだ、わからないか烙。……まぁ、知る必要がないか。夢華の方はどういったことか知っているみたいだしな」 悧智は臨戦体形に入る。夢華も両手にトンファーを構える。しかし構えただけで何か行動を起こそうとしている風には見えなかった。 悧智が何かしようとした時、だった。夢華の前に篝火がたつ。 [*前] | [次#] TOP |