[ 「……」 夢華は篝火の方を向く。 「どうした? あの真っ白いのと知り合いか?」 朔夜が首を傾げる。篝火からの返答はない 「大切だと、認めたら前に進める?」 「……」 篝火が夢華から逃げるように後ろに下がろうとする。だが何かにぶつかりそれ以上後ろに進むことは叶わなかった。後ろを軽く見れば泉がいる。泉が何故篝火の後ろに立っていたのか、篝火には泉が態と自分の後ろに立ち、逃げ道を作らないようにするために思えた。 「君は失わないように何を――する?」 あの時答えられずに逃げてしまった答えを、今応えなければならない。篝火にとって何度も繰り返し呟かれた言葉。そして脳内で今でも繰り返される言葉。 「又、失わないように、君は何をする?」 「俺は……」 ――大切だと認めていながら、何故気付かないふりをするの? ――そうして、君は大切な人を失うんだよ ――どうして、否定することしかしなかったの 「俺は……今度は認めるよ」 それが答え。認めるのが怖くて、大切だとわかっていながら肯定出来ずに、あの時大切な“相棒”を失った。 「うん、それがいいよ」 心なしか、篝火には夢華が嬉しそうにしているのが感じられた。 「何々、お前あの真っ白いのと知り合いなのか?」 朔夜の再度の問いかけ 「あぁ、罪人の牢獄に来る前の」 「あれ? 前に同じ質問した?」 「していないと思うが?」 「まぁいいや」 朔夜があっさりと引き下がったのは、今現れたのは敵ではないから。夢華は敵ではない、直感でそう感じた。この場にいる夢華は白き断罪としての敵じゃない、一個人として現れただけ。 「夢華、しかしお前までで歩いていていいのか?」 是から白き断罪が行動を起こすのなら、勝手に出歩くことはご法度ではないか、烙は心配して声をかける。夢華はう自分と違い白き断罪を裏切ってはいない。 是から戦う相手だというのは重々承知の上で、それでも聞かずにはいられない。 目を離したら何処か手の届かない場所にいきそうな、夢華だからこそ。 「すぐに、戻るよ。僕は感じにきただけだから。……黒い人」 黒い人、それが誰を示すのか一目瞭然だった。無論郁も真っ黒ではあるが、泉と郁、どちらが黒い人だと質問されれば、ほぼ盤上一致で泉を指差すだろう。夢華の視線も泉を向いている。 「なんだ? 夢華」 「律の……ううん。違うね。守る意思と守る意思が同じなのに、律はなんで君の元から離れたんだろうね――泉」 泉の名を呼ぶ。確かに、泉と夢華は一度軽く戦ったことはあったが、名前を夢華が知っていたとは到底思えない。泉を除く一同は驚きの表情をしていた。 勿論、他の誰かから泉のことを聞いた、そういう可能性も十分にあったが。 「俺が罪人の牢獄に来ると、決めたからだろうな。ここにきてしまえば復讐が出来なくなる。それも非合法での。だから、そのためにいなくなったんだろ」 「なのに、律はここにきた。此処に来ることを拒否することも出来たのに」 「…………」 「結局、大切な人は、傍らにいたんだろうね。会いたくないって逃げ回っていても、心のどこかでは再会を渇望している」 「夢華、お前はここにいていいのか? お前には――」 「そこまでにしたらどうだ?」 泉が喋り終える前に邪魔が入る。夢華の後方から声がする。敵意ある声だ。 夢華は声を聞いた瞬間、咄嗟に篝火たちに背を向ける形になり、バックステップで篝火たちに近づく。 自分に対して敵意を感じた夢華は、敵意を感じることのない篝火たちの方に移動した。 [*前] | [次#] TOP |