零の旋律 | ナノ

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 雛罌粟の自宅がある方向に進もうとしていた時、視界が白くなる。実際に視界全てが白になったわけではないのに――全てが白に覆われたかのような錯覚に陥る。
 泉とは対極の色がイメージカラーの存在――夢華がそこにいた。
 気配を感じさせない佇まいはそれだけで儚い印象を抱かせる。

「夢華……」
「夢華が……どうして」

 篝火と烙がともに声を上げる。
 郁は白き断罪が現れたことに、周囲に気を張り巡らせるが、他に白き断罪がいる気配はない。
 もっとも気配を消していたのなら別だが。

「烙、やっぱり君はそちらに行くんだね」

 朝起きても烙は白き断罪拠点の何処にもいなかった。夢華は烙がもう戻って来ない事を確信して会いにやってきた。
 言葉を告げる為に、誰にも告げずに一人でやってきた。たった一人で――

「……悪いな」
「ううん。烙がそう決めたのならいいんだよ。だって烙の心は澄んでいる。揺れ動き壊れかけていた時とは違うよ。烙がそちらに行くことを決めたのが烙なら、僕は何も言う事がないよ。ただ……最期に会っておこうかなって思っただけ。多分、まともに会話出来るのは是が最期だろうから」

 烙が白き断罪と敵対するなら、次出会うときは敵同士。
 ゆっくりと会話をするなら、白圭が最後の戦いを挑む前に会う必要があった。
 だから、夢華はリスクを冒して烙に会いに来た。
 そして――目的はもう一つ

「あぁ、有難う」
「ううん。僕は何もしていないよ」
「……色々八つ当たりして悪かったな」

 敵同士になるなら、既になってしまっていたとしても――烙は此処で夢華に伝えたい事が云わなければならない言葉があった。斎と再会したことで真実が別にある可能性に気がついた時、心が揺れ動いていた時、自分に寄り添ってくれた夢華に八つ当たりをしてしまった。だから、敵同士になる前に謝っておきたかった。

「大丈夫だよ、僕はそんなこと気にしないから」
 ――烙が幸せなら、それでいい
「悪かった」

 これで、謝るのは最後。これ以上は謝ることはしない。
 だから――

「ありがとう」

 この言葉を夢華に告げる。


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