零の旋律 | ナノ

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 出会ったことは記憶となり想いでとなり
 一つの物語を記録していく

 待ち合わせ時間になった事を確認し、外に出る。朝日は相変わらず昇る事がないが、磁場の狂った場所専用に特殊な術が施されている腕時計で時間を確認する。
 現在時刻は九時を少し回った所。普段は遅くまで寝ている朔夜にしてみれば早い時間からの活動だ。普段は夜更かしをしているが、白き断罪がこの街に現れてからは夜更かしの回数が減っていた。
 斎と烙の二人はまだ戻って来ないが、二人の事だから殺されるという事はないと心配はしていなかった。第一に、いくら対価を支払わなければ情報を教えない情報屋の泉だったとしても――何か起きたら簡単に説明してくれるだろうと信じていた。
 外で待つこと二十分。ようやく斎と烙は姿を現す。別段争った様子はない。

「遅い!!」

 外で二十分も待たされた朔夜の第一声が第二の街に響く。朔夜の声が目覚まし代わりとなり目覚めた罪人もいるだろう。

「ごめんごめーん、偶には待つ気分を味わうのもいいかなぁと待たせてみました」

 語尾にハートがつきそうなテンションの斎に、怒鳴り返す勢いをそがれる朔夜だった。

「気味悪くて、なんか反論するのも面倒」
「うわー朔が珍しく低テンション。気味悪いよ。まぁごめんごめん。ちょっとね帰り際に榴華に会っちゃってさぁ」
「大丈夫だったのか?」

 朔夜の視線は自然と烙の方へ移動する。榴華とは烙が白き断罪の一員として一戦を交えた相手だ。いくら服装と髪型が代わっているとはいえ、榴華が気がつかないわけがない。

「うん。イツンがいいんなら、いんじゃーんっていってた」
「やけにあっさりしているな」
「ま、俺の信頼が厚かったということで」
「うそくせー」
「あははっ、まぁいいじゃない、いいじゃない。問題なかったんだから」

 そう笑ってすます斎だったが、その時斎は、泉が僅かに苦笑していたのが見て取れた。
 ――泉はなんでもお見通しか
 本当は榴華と出会った時に一問題があった。何もなければ二十分も待たせることはない。しかし今はあえて語る必要がないと判断した。
 それに最終的には榴華に、烙が一緒にいることを勝手にしろと言われていた。

「さて、雛罌粟の元へ向かうか」

 泉が此処にいる理由。篝火はそこで、律探しと準備はどうなったのか疑問に感じたが、泉が何もしないまま帰ってくるはずがないと判断し口を挟まなかった。余計なお世話だろうとも思い。
 恐らく、次に白き断罪が断罪に来る時は総戦力で来る。そう考えた雛罌粟は予め今日の昼までに部屋に来るように言われていたのだ。勿論泉も。


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