X 「食べられるように準備しておけ」 「はいよ」 勿論準備を手伝うのは篝火一人。朔夜はその辺でごろごろと転がっている。たまに踏みつけたくなる。 郁は元々手伝わせるのが危険なので除外だ。 てきぱきと準備するその姿は、手慣れている。 泉と篝火が準備をしている中、郁は朔夜の隣に座る。転がっていた朔夜は起き上がる。 「どうした?」 「いや、なんでもないさ……昨日はありがとうな」 「いや、別にたいしたことはなにもしてねぇじゃねぇかよ」 「それでも、私にとっては嬉しかったんだよ」 「そっか、ならいいんじゃねぇの」 「食べるぞ」 篝火の声が朔夜と郁の会話を打ち切る。程なくしてテーブルの上に料理が並ぶ。 篝火の予想は外れ、朝食はドリアだった。 「なんか、朝から豪勢だよな」 ドリアに、コーンスープ、ドレッシングのかかったサラダが並べられていた。 「珍しくスパゲティじゃないんだな」 「偶にはドリアもいいだろう」 泉の手料理を口に運ぶ。篝火の料理とはまた違った風味が楽しめる美味しい料理だった。偶に篝火は何でもそつなくこなす泉の苦手な事はなんだろうと気になるが、泉が人に弱点を知られるようなヘマをするとは到底思えないので考えるだけ時間の無駄か――と思った時、朝に弱くて目覚まし時計を毎回壊している事を思いだした。 朝食を食べ終えた後、斎と烙との待ち合わせ時間までの空き時間、其々自由に過ごす事にした。 篝火と泉は空いた時間で後片付けをしている。朔夜と郁は手伝わない。郁が手伝えば後片付けですら謎の物体を作り上げるだろう。 「そういや、朔夜は恋をしたことはあるのか?」 突然まいぶれもなく朔夜にとって全く予想していなかった話題を郁から聞かれる。 「はぁ? 何をいきなり。そもそも恋ってなんだよ」 「そこからかよ。まぁ私もよくわからないさ……愛し合うんじゃねぇか」 「愛し合うか。相手が好きってことか?」 「んー朔のいうそれとはまた違う気がするなぁ」 「?」 「お前の……両親みたいな存在じゃないか。お互いがお互いを愛している恋愛」 「やっぱ、よくわからんな」 朔夜はばたっと後ろに倒れる。現在いる場所は泉が使用している部屋のベッドの上だ。 朔夜が倒れた衝撃でベッドが揺れる。 「なら、私と恋愛してみるか?」 唐突に紡がれる郁の言葉。 「はっ、冗談じゃねぇ」 朔夜は一蹴する。郁は、悲しむとかいう素振りは一切なくだよなと笑う。 「恋とか、よくわかんねぇけどこれだけはわかる」 朔夜は断言する。 「郁と恋をしたら、泉に殺される」 「だよな」 郁も同意する。 「人様の妹に何してんだ? っていって俺の寿命が尽きる」 「同感だ」 二人は顔を見合わせて笑う。 「何を笑っているんだ?」 その笑い声に、片付けが終わった篝火が顔を出す。 「いや、秘密だ」 「わけがわからん。あっ、パン食べる?」 「勝手に食ってろ」 こうして時間は過ぎていく―― [*前] | [次#] TOP |