零の旋律 | ナノ

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 篝火がこの街に来た時、朔夜とは出会った。
 それからある出来事があり、最終的に篝火は朔夜が住んでいる住居に一緒に住むこととなった。
 理由は結構簡単。各街にいる支配者の一人から朔夜の実生活が不規則だから正してほしいという願いの元。
 実際初めて篝火は朔夜の部屋に入った時、その不規則に目まいがしたほど。
 それからというもの、篝火はご飯を作ったり髪の毛を梳かしたり、毎朝朔夜を起こしたりの生活をしている。



「お邪魔しま〜す」

 扉をノックもしないで開く音と声がした。鍵は外出する時以外は掛けていない。罪人の牢獄にはそもそも通常の鍵などあっても意味を成さない、に等しい。気休め程度――である。
 ノックくらいしろと思いつつ、いつものことなので口には出さない。知らない人ならば構えるが、やってきたのは顔見知り。

「あいよ、斎」
「俺だけじゃないよ、郁(かおる)もいる。泉(いずみ)は就寝中」
「お邪魔するぞ」

 先ほどの声とは違った声がもう一つ聞こえてくる。
 そして、玄関から二人のいるリビングに二人の影が現れる。

「やぁ、朔夜は今日も不機嫌そうだね」
「邪魔するぞ、篝火に朔夜」
「おはよ、斎に郁」
「てめぇら、帰れよ」

 斎(いつき)と呼ばれた人物はまだ少年の面影が残る顔立ち、何処か優しそうな風貌を、けれど何処か無邪気な。
 外見で言うなら、二十歳にはまだ届いていない、けれど実際は二十一歳。
 黄緑色の髪は、短く丸みを全体的に持たせてある。瞳は緑色。
 服装は所々に黒の線とボタン、黒と紫のベルトが巻かれている。焦げ茶色のブーツ。 そのほかは白一色といっても過言ではないほど、白が目立つ。

「今度、じゃあ朔夜には郁特製料理をご馳走してあげるね」
「てめぇの手作りじゃなくて郁のかよ」
「俺が作ったって美味しいだけじゃないか」
「ふざけんなっ」

 朔夜は手短にあるものを斎に投げようとして、テーブルのまわりを見渡したが、そこは既に篝火が丁寧に後片付けをした御蔭で何もなかった。
 しいて言うならテーブルだが、六人用の食卓テーブルを投げられる自身は皆無。
 投げられたやつには拍手というなの攻撃をしようと密かに心に決める。

「おい、お前ら、人のことおいて勝手に進むな! 特に斎はなんで私の手料理なんだ!」
「だって“必殺壊滅的料理の味で一殺よ”じゃん」
「どこがだ!」

 郁は声をあげて抗議するが、斎には涼しい顔でスルーされてしまう。
 郁の料理は、郁自身も認めるところだが、料理が苦手。
 説明書を丁寧に読んだとしても、それ通りに作れることはまずない。どこかで何かが起こって変わり果てた物体とかす。
 郁(かおる)は、斎と同じくらい二十歳に届くか届かないかの年齢、しかし此方は斎とは違い十八歳。
 漆黒の髪と同じ色の瞳は鋭い。
 服装も黒く全身黒ずくめに近く長い髪の毛は一本に縛られていて腰より下の位置にある。
 長さでいうのならば、朔夜と同等の長さをしているだろう。
 全体的に白い斎と、黒い郁が並ぶと対照的な印象を相手に与えるだろう。


 斎も郁も第一の街に住まう罪人である。
 そして、このようなやりとりは日常的な会話の一つ。


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