零の旋律 | ナノ

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 ――歌おう、そして届けよう

「空が闇に覆われたとしても、それは絶望ではない、夜空に瞬く星の輝きと、月光が貴方を照らすから、見守られた世界の中で、幸せを感じることが出来るなら、私はお礼を込めて、この星に歌う――」

 両親が生きていたころを朔夜は思い出す。
 いつも自分が寝付けないときに歌っていてくれた子守唄。
 子守唄でありながら、子守唄ではないような歌詞が、朔夜の耳に残っていた。
 朔夜は静かに口ずさむ。なつかしき日々を懐古するように。

「星空が瞬くなら、私はその光に涙を流し、夜空を見上げるたびに、朝日の晃明日を描く」

 郁は眼をつぶり、静かにその歌に耳を傾ける。
 始めて聞く、朔夜の歌。その歌に込められたぬくもりを感じながら、睡魔が静かに眠りへといざなう。

「闇は恐怖ではない、闇があるから光はある、光があるから闇がある、だから恐れるなかれ、私は闇に希望を見出す。光が闇を、闇が光を、全ては表裏一体。どちらもかけてはいけないものだから」

 昔両親はこの歌詞に一体どんな思いを込めて自分にきかせていたのだろうか

「だから、私たちは信じていた者へ進んでいける。この世に愛を見つけられたなら、この星の輝きを愛するものとともに見よう、そして、私は星の輝きをみて、涙を流すだろう。この世界に生まれたことに感謝して。私は、歌う。この闇に向かって、いつか闇が、絶望だけではないのだよ、と伝えに行くために、そして私は―――」

 最後まで想い出の子守唄を歌おうとして、そこで、歌が途切れる。
 郁はすでに眠りについたのだろう、続きは? という声が聞こえてくることはなかった。
 続きがどんな歌だったか、思い出せないのだ。
 何度も歌ってもらって、記憶に残っているはずなのに、最後の一節だけが、どうしても思い出せなかった。

「って……俺に歌なんてにあわねぇか」

 誰も返答がないのに、一人で朔夜は呟いた後にそろそろ寝るかと思い始める。郁ももう寝ているし、これ以上起きていても朝起きられないだけだろうと判断して。
 もっとも普段通りに寝たからといって、朝が起きられるものでもないが。


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