T 「さて、郁も寝むそうだし、俺も寝るな、無理はするなよ」 「はいはい、お母さん」 「だーかーら、誰がお母さんだ。因みに保護者でもない」 篝火は毎度毎度否定をするが、心の中で、それも悪くないなと思い始めていた。篝火は部屋を出ていく。朔夜はまだ話すことがあるのか、その場から離れない。 篝火は布団に入ったのだろう、暫くしないうちに定期的な寝息が聞こえてくる。 「朔は寝ないのか?」 「いや、寝るけどさ。なんか目、覚めちまったから……少し郁に聞きたいこともあるし、いいかなと」 「ん? なんだ」 平穏な空間、今だけは誰も邪魔をしないで、そう願う。 「……なんで、お前は俺の……深紅の宝玉をみたとき、俺が王族だとわかったんだ?」 他の仲間は誰も知らないことを知っていた。 単純に情報屋だから、そう帰ってくる可能性が高いことを承知の上で質問した。 情報屋だから、それ以外の可能性があるのならそれが何か朔夜は知りたかった。 深紅の宝玉は機密情報で一般人に知られることはまずない。 「そのことか。……色々あるんだよ私にも。ただな、話せるときがきたらお前に教える。それまでは待っていてほしい」 心の整理がつくまで。心の整理がついたその時自らの意思で自分たちの事を語ろうと。 「わかったよ。俺は……待っている」 郁の気持ちの整理がつくまで。何時までも。例え何十年後だろうが 「有難う」 「まっ、仲間だし。気長に待っていてやるよ」 「あぁ」 笑顔で笑わせて、この手に幸せを感じさせて、今ある瞬間を受け止めさせて 「じゃあ流石に俺も寝る。朝普段のように寝ているとお母さんからの鉄拳が飛んできそうなんで」 「ははっ、篝火は真面目だからなぁ」 篝火はどういった経緯で泥棒として生計を立てるようになったのか、疑問に感じる朔夜と郁だったが、何時か篝火に聞けばいい。そう考え今は考えないことにした。 「んじゃ、いくぞ」 「まっ……待て……」 「なんだ?」 口元を布団で覆い隠すようにして、少し恥ずかしそうに郁はいう 「……さ、朔、今だけ傍にいてくれ」 「……! 別にいいぜ、俺は夜行性だからな。朝には弱いけど」 「悪いな……その、なんだか寂しくて」 一室で区切られた此処は隔離されているようで、寂しさを郁は感じていた。 普段、賑わいながら、寝ることに慣れすぎてしまったのだろうか。それとも、安心したからだろうか。 「んじゃ、お休み〜」 朔夜はその部屋から離れることなく、泉が普段座っているだろう机に座る。 [*前] | [次#] TOP |