零の旋律 | ナノ

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「じゃあ、俺は出掛け……ぶんなぐる」
「相手のない喧嘩は出来ないってか、いってらっしゃい」
「あぁ」

 少し泉に近づけた気がするのは気のせいだろうか。
 もし、それが本当なら。いつかは――

「あぁ、そうだ、最後に郁は今日、俺が使っているベッドにでも寝かせとけ」
「はいはい」

 本当に、いつかは保護者からお母さんに昇格してしまうのではないかと思う篝火だった。

「……なぁ一つ聞いていいか」

 泉がその場から立ち去ろうとした時、篝火も風呂場から離れて廊下に出る。
 風呂場には朔夜と郁がいる。二人から態と離れる為だろうか。
 泉は篝火の言葉に足を止める。聞く気があるということだ。

「お前らは何をしてここに来た?」
「……俺は加害者だとしても郁は被害者だ。何もしていない」

 泉の口から語られる。泉の背を見ながら篝火は冷静であろうとする。
 泉は篝火の方を見ない。振り向くことはしない。

「郁は……被害者だ。それだけは事実」
「何を……された?」
「郁の心を傷つけた。今回のことも、全ての発端はそれだ」
「……」
「あの時の郁の姿……表情は今でも忘れないさ。恐怖と絶望で彩られたその顔をな」
「泉は何をやった」

 泉が何故語ってくれるかそんなことは考えない。

「郁を傷つけた元凶を生かしながら殺そうとした。そして建物を半壊させて、元凶を助けようとした部下たちを殺した」
「……」
「とりあえず見境なく殺したな」

 泉がどれ程の人数を殺したのかはわからない。けれど篝火は泉ならば人を殺すことが可能だということを知っている。そして人を殺すことを躊躇しない人だということも知っている。

「律やカイヤたちが俺を止めようとしなかったら多分もっと殺していたな」
「……お前を止める勇気があるやつらに拍手だな」
「はっ、あいつらは俺と同じくらい強いんだ。止めることは不可能ではないさ」
「そうか」
「俺たちがここに来たのが何故だかわかるか?」

 泉は問う。仮に泉が大量殺人をした。郁が被害に遭いその怒りからしても流石に度を超えているだろう、一般的な視点で見るのならば。
 だから、泉が罪人であることになっても恐らくは不思議ではない。
 ただ、不思議であるのは被害者である郁が罪人であるということ。
 郁は何もしていない。むしろされた側だ。
 篝火が答えないでいると泉は口を開く。


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