X ――あぁ。二人にも心配をかけてしまった 「もう、大丈夫だ。落ち着いた。……ごめんな」 数分後、落ち着きを取り戻した郁はおもむろにそう告げる。目の前でずっとそばにいてくれた篝火と泉に対して。 「謝る必要なんてないだろうがよ」 「これ以上、不安をため込むなよ」 二人の言葉。それが郁にはあたたかくて、心に浸透する。 「あぁ、有難う」 誰かに話すことで、この心は癒えるのだろうか―― 「お前ら何をしているんだ? ……風呂場で」 この騒ぎにやっと目を覚ましたのか、髪の毛がボサボサになっている朔夜がやってくる。 その恰好に郁は笑いがこみあげてくる。何時も見ているはずなのに。 「なんだぁ?」 「せめてみつあみにして寝たらどうだ。相変わらず髪の毛がぼさぼさだぞ」 「みつあみってなんかやだ」 「そうか? 可愛いと思うけどな」 「……オイ」 「あははっ、今度私がみつあみをしてやるよ」 「いらんわ!」 今までの重たい空気を吹き飛ばすかのような明るさ。 篝火と泉は人知れずほっと溜息をついた。 「……篝火、郁を頼んだ」 「ん? あぁ、何処かに出掛けるのか?」 「探し人の準備……だ」 「探し人?」 「……律だ。これ以上郁が悲しまないように、どうせもうすぐ白き断罪も何かしら行動を起こすだろう、それに対しての準備と対策だ。おそらく律が作戦を立てている。律は俺の情報の集め方を知っている、だから情報が俺にばれないように策を張ったお蔭で、どういった作戦で白き断罪がくるのか、そこまでの情報がないからな」 泉の言葉に篝火は驚きを隠せない。泉の人間業とは思えない情報収集能力に対して、対策を打てるものが存在していたことに。 「……彼を知り己を知れば百戦殆うからず……お前は味方と考えていいんだよな?」 「……へぇ、ただの泥棒とかっていうわけではないんだな」 篝火は驚嘆の言葉を使うわけでもなく、ただ泉に別のことを問う。この先白き断罪との戦いが避けられぬものなら、確認することがあるから。 例え、泉が完璧な味方ではなかろうとも。 「郁がお前らの味方である限り、俺は……あぁ、お前らの味方だよ」 篝火は予期していない言葉に驚きを隠せなかった。 誰も信じない、孤島の情報屋。 大切な郁だけなのに、その泉が、郁が関係しているとはいえ、味方と言ってくれた。 何処から現れるかわからない、喜びに包まれた。 いつか、泉を包み込む氷は溶けることがあるだろうか ――いつか [*前] | [次#] TOP |