零の旋律 | ナノ

V


 ――私は何故ここに存在する。

 そして、そんな自分にまた痛みが増えていく。
 その連鎖に縛られ続けながらも、抜け出すことが出来ない。
 消えない痛みは新たな傷を生み続けるだけ

 そうと知りながら人は抜け出せない

「おい! 何をやっているんだ」

 ぐったりと横たわる人影
 血を流しすぎただろうか。久々で感覚を忘れてしまったか、それとも最近傷口が開いたのが原因なのだろうかと、その人物は思考する。

「何やっているんだ!!」

 横たわる人物に気がついた――篝火はあわてて駆け寄りながら、叫び声を再び上げる。
 目にするは真っ赤な血、幾度もその瞳で見てきた鮮血が今、周囲に滴っている。
 そして同時にその辺に転がっている包帯に気づく。
 何故こんなところに包帯が無造作に落ちているか、すぐに判断出来た。
 止血するためだと。
 包帯を拾い、出血を抑えるために包帯を丁寧に巻いていく。

「馬鹿か!」

 それと同時に怒鳴り声が辺りを響かせる。

「郁!」

 誰かに気づいてほしくて
 それで誰にも気づいてほしくなくて
 そうして自分を痛めつけることでしか平穏を持てなかった

 ――でも、もう終わりなのだろうか

「か……篝火、大丈夫だ」

 何が大丈夫だったのだろうか、おそらく篝火に心配させたくなくてとっさに出てきた言葉。
 血を普段より流しすぎたのかと郁は自嘲する。視界が僅かに掠れる。


「何がだっ馬鹿か」

 篝火は本気で怒っている。そんな篝火を、郁はあの時以降みたことがなかった。
 

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