零の旋律 | ナノ

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 白き断罪が、作戦を実行する一日前の夜
 斎と烙は一旦、斎の用事で第一の街へと足を運ぶことにした。
 相変わらず泉は、何処かへ出歩いているのか姿を見せない。
 雛罌粟に借りた家には篝火、朔夜、郁の三人だけだった。

「なんで……いなくなってしまったんだろうな」

 その手に握り占める刃。何度となく傷つけてきた
 わかっている自ら死にたいわけではない、ただ生きていると、自分がここに存在していることを感じたいだけだと。
 ――違う、そんなものじゃない。ただ、痛みで自らの心を癒したいだけだ。
 痛みで癒される事はないと、理解していながら、承知していながら、それでも痛みを別の痛みによって消し去りたかった。忘れ去りたかった。
 永遠に消えることがない傷なら、永遠に痛みを与え続けることでしか、その痛みを緩和することはできないのだろうか。――痛い痛い痛い痛い、苦しい苦しい苦しい、心の悲鳴。切実な悲鳴。声高に叫ぶ事の出来ない思い。

 ――誰か私を見つけて
 そこにある光景が眩しくて痛む。傍らにいてくれた存在がいなくて痛む。再会してしまって傷口が広がる。守られる事に痛む。痛んで痛んで、痛みを忘れ去りたくて痛みを得て――それでも痛みは治まらなくて。むしろ悪化するばかりなのに、手放す事が出来なくて。
 足元に絡みつく糸は徐々に強く絡みつき抜け出せなくなっていく。

 音が微かにする。
 微弱な音。
 滴る血、流れる真っ赤な血
 血を見れば安心出来るだろうか。新たに出来た痛みは、今までの傷を緩和してくれる。
 どんなに愚かなことだろうとも
 それしか方法がなかった。
 それで、傷つく人がいても
 やめることはできなかった。


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