零の旋律 | ナノ

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 ――君たちの命の晩餐で、僕は満腹を得よう
 第二の街から出る人影二つ。

「あーもうちょっと長くいたかったのになぁー」
「駄目です。水波さんは色々仕事が残っているでしょう」
「えー」
「えーじゃありません」
「うー」
「いい加減にしてください」

 第三の街支配者、水波とその部下紅於は、自分たちのいるべき街へ戻るための岐路についていた。

「だってだってー」

 頬を膨らませて文句をいう水波に、紅於はため息をする。
 たまにどうしてこの人に下についたのだか、忘れてしまいそうになる。

「いい加減にしましょうよ、水波さん」
「んー、まぁいいんだけどさぁ。白き断罪にこの街が荒らされるんだねぇ」
「何かおかしなことでも?」
「だって、白き断罪だよ。本来の存在意義も忘れてこの地に降り立つだなんてさぁ」
「本来の存在意義?」

 口調は真面目ではないものの、言っていることが普段とは違い真面目な水波。

「うん、そう。だって政府直属組織だよ。だったらそんな存在意義なんて決まっているようなもんじゃん。なのになんで、政府の利益にならないことをするんだろうねぇ」
「己の信念と、それが合わなかったからでは? 努力だけではどうにもならないことに絶望した、だからこの地を襲った」
「んにゃ、違うよ」
「どういうことです?」

 紅於は首をかしげる。
 そして、どうしてこの人の部下となったのか、その理由を思い出す。

「だってさぁ、なんでそんな人が何人もいるの? そもそも白蓮全員が一緒に来て反撥者が一人もいないことがおかしいじゃん」
「あっ……」

 全ての人が反乱分子となるわけがない。その反乱分子の中に、さらに反乱分子がいたとしてもおかしくはない。

「それにさぁ、白圭って嫌がるのを無理強いはしないんだよ、だから。“この地に来なくても白圭は一切何も言わない”自ら強要するなんて、死ににいくようなもんだしねぇ、それに」
「それに?」
「命をかけてまで、“世界を正す”必要があるの?」

 ――命をかけて正したら、そのあとの世界なんて見られないよ
 ――自分がやった後の結末なんて見られないまま終わってしまうんだよ

 ――そこに何の意味が存在するの?


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