零の旋律 | ナノ

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「俺たちは元々罪人だ。俺は唯の泥棒であり、悪党であり――罪人だ。どうこう言える筋合いはないし、それに人を殺していないとは言えない。殺した。……薄情なものさ。仲間が殺されれば激昂するだろうけれど、赤の他人が殺されれば余り関心を抱かず終わる」
「……酷い話だな」
「けど、きっとそれが事実。赤の他人の為に人は深い憎悪を相手に抱かない。罪に染まりしこの場所ではそれがより一層顕著に表れるんだろうな」
「例えば俺が朔夜を殺していたとしたら、お前は俺を許さなかったのだろうな」
「あぁ、許さなかったな。家の敷居に上がらせることすらしないさ」

 誰かと誰かを天平にかけることしか出来ないのだろうか。

「だけど、現実にはお前は朔夜を殺さなかった。勿論郁も斎も、俺も」
「あぁ……」

 正しく云うのなら殺さなかったではなく、殺せなかったになるのだろう。
 勿論烙が訂正するまでもなく篝火も理解している。

「生きてく道って難しいな」
「そうだな」

 篝火は瞳の事には一切触れなかった。気にしてないという意味だろうか――そう考えながら烙は篝火と会話するのをやめた。これ以上料理の邪魔をしてはいけないと判断したからだ。朔夜と郁の元へ向かう。
 此処から先、例え白き断罪と戦う事になったとしても、躊躇しないと決めた。
 白き断罪と斎を天平にかけ、斎を選んだのなら、揺れ動くつもりはなかった。白き断罪を裏切ったことは正直に言えば胸が痛んだ。けれど後悔はしていない。
 斎を見捨てる事は出来ない、あの時あの日、自分の瞳を忌み嫌っていた中で、唯一笑顔で自分に接してくれた親友を。微笑んでくれた斎を。

+++
 白き断罪拠点

「謀は密なるを貴ぶってな」

 独り言のように律は呟く。

「どうした?」

 律の独り言を聞きとった悧智は顔を顰める。
 律(りつ)、最近白き断罪に所属したばかりの新参者。戦闘行為が苦手なのか、戦闘には参加せず遠巻きに見ているか、逃げている事が多い白蓮の帷幄の臣をしている青年。

「単なる独り言だ、気にしないでくれ。情報屋に情報が漏れないようにするのが今回の作戦をやるなら最初にすることだしな」
「何をだ」
「秘密だ」
「……」

 悧智の持つ緑の双眸が、律を品定めするように律を上から下へと見ていく。値踏みした結果、律を信用してはいけないと感じた。何かを隠していると、心の何処かで引っかかる。何故そのような印象を抱いたのか悧智自身もわからない。ただ、全てを律に任せたら何が起こるかわからない、漠然とした違和感。
 ならば――と、悧智も策を密かに立てようと決める。律には悟られないように静かに。


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