零の旋律 | ナノ

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「一応……自己紹介させてもらってもよいか?」
「むしろお互い良く知らねぇからその方が助かるだろ」

 刃を交えても、その中で交わす会話等数少ない。

「俺は……久我烙(くが らく)。年齢は斎と同じで二十一歳。因みに斎とは小さい頃からの知り合いだ」
「朔夜。十九歳。斎が、罪人の牢獄にやってきたころからの知り合いだ」
「郁。十八歳だ。二年ほど前からここにいる。斎より、少し早くこちらには来たな」
「なんで、お前ら全員年齢言ってんだよ。名前は篝火で二十一歳。斎とは同じ年齢。二年半くらい前から、こっちにはいる」

 簡単な自己紹介を交わす。これからの仲間として。

「白き断罪から、抜けても良かったのか? 思い入れとかもあるだろう」

 再度確認する。

「いいんだ。元々斎の紹介で入ったから……まぁ心残りがあるとすれば由蘭には悪いことをしたな」
「あぁ、あの女男か」

 由蘭と戦った朔夜は、その様子を思いだす。最も思いだそうとしなくとも、容姿と言動、そして性別の印象が強く忘れられない相手でもあった。

「斎のことを慕っていたし、俺と斎と由蘭でよく一緒にいたからな」
「……いいのか?」
「由蘭には、白き断罪にいるべきだ、まだ十五だぞ? 由蘭は。若いうちから、こちら側に来るべきではない」
「……そうだな」

 由蘭が、それを好意ととるか裏切りととるかは別として。何時も一緒にいた二人が自分の目の前から次々といなくなればどんな気持ちになるか、想像はつける事は出来ても、実際の心境は由蘭でなければわからないことだ。もし由蘭が斎と烙と一緒にいることを望むのなら烙はそれを苦笑しながら迎え入れるだろうことを、朔夜は理解していた。烙と同じように自分で選択し選んだ道なら止めないと。歓迎する――と。

「さて、一通り話も終わったところで夕飯にするか。今晩はパンな」
「またかよ!」

 いい加減に飽きると抗議の声。

「そろそろ、パン以外の食べ物も食べたいのだが」

 郁も朔夜に同意する。

「じゃあ、お前らが作れよ」
「やだ」
「面倒」

 二つの否定の声が聞こえる。最も郁が率先して作ると返答されても困るのだが。篝火はため息とも苦笑ともとれない息を吐きながら台所へ向かう。夕食は抗議されようと文句をつけられようとパン。
 明日の朝もパンの予定だ。それほどまでに篝火はパンが好きだった。
 あの香ばしい香り、程よいかみごたえは一度食べたら忘れられない触感。

「手伝おうか?」

 烙が遠慮がちに声をかける。篝火一人だけに作らせるのは悪い気がしたからだ。

「料理出来るのか?」
「野営……の時作る料理とかなら、若干」
「じゃあ、いいよ気持ちだけ受け取っておく」
「そうか」
「あっちで、会話でもして楽しんどいて」

 烙は聞こうか止めるべきか、一瞬だけ悩んだが口を開く。此処で聞かなければ何れ後悔する。時間が経過すればするほど聞きにくくなる。

「俺は罪人を沢山殺した。それなのにお前らは俺を受け入れるのか? それに……金色の瞳だし」

 烙は聞こうかやめるべきか、一瞬だけ悩んだが、口を開く。ここで聞かなければ何れ後悔をする。
 篝火はパンにつけ合わせるサラダを用意する為、野菜を包丁で切っていた。規則的な音が途切れ、すぐに再会する。篝火は烙に背を向けたままで、烙の顔を見ようとはしなかった。見たくないからではない、見てはいけない気がしたからだ。


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