零の旋律 | ナノ

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「なんで、戻ってきてくれないのだろうな……」

 第一の街へ向かう道中。郁は呟く。烙と斎を見てなおさら強く思ってしまう。何故いなくなったのかと。
 自ら語り、しかし自らいなくなった者を思う。
 怪我をしている箇所が、酷く痛みを訴えるような錯覚に陥る。今何処で何を考えているのか。復讐等しなくてもいい、皆と一緒にいて、傍らで笑い会えたら良かった。それだけでよかったのに――
 味方と呼べる存在がいない世界の中で唯一味方だった、仲間だった存在を。

「……」

 不安の波が押し寄せてくる。ここにいない存在を求めて


 夜、雛罌粟に借りている家へ篝火、朔夜、郁は戻る。復興作業の手伝いをしてきた身体は疲れていて、すぐにでも寝たい心境に駆られる。最も手首に怪我があると知られた郁は柚霧の手伝いをしていただけの為、体力的に余裕があった。
 リビングに入ると、部屋では床に座り仲良く会話している斎と烙の姿があった。あの後からずっと喋っていたのだろう、それでも話題は尽きない。自然と笑みが零れる光景だった。

「おかえりー」

 斎は篝火たちが帰宅したのに気付き、丁度いいタイミングで声をかける。烙はどうしていいかわからず、伏せた。今まで敵だったはずの自分が居座っている居心地の悪さを感じているのだろう。
 親友である斎はともかく篝火たちは烙の事を殆ど知らない。刃を交えた事はあっても。
 そして烙は自分の意思で数多の罪人を殺害した。何より斎を傷つけた。
 例え斎が自分の存在を許したとしても――この場にいていいのだろうか、その思いが心を占める。

「いいのか? 白き断罪に戻らなくて」

 烙の様子を知ってか知らずか朔夜は烙に尋ねる。

「あぁ……」

 返事が曖昧になる。それは、覚悟が揺らいだわけではない。

「誰かと戦ったりしているところを見られているのか?」
「へっ」

 予想外の言葉に、思わずキョトンとし言葉が見つからない。

「だーかーら、見られていたなら、お前が此方サイドにきても白き断罪の一人だって露見するだろうが」
「あ……。多分第一の街支配者と一部の住民には見られている」
「それ以外は?」
「お前ら。それ以外は殺してきたから見られてはいないはず」
「ふーん、まぁその程度なら白い服さえ着なかったら問題ないか。部屋は狭くなるけど問題はないよな?」

 篝火たちに向けての言葉ではない。それは烙に向けて。

「いいのか?」

 朔夜の言わんとしている事の意味を理解し、確認をしてしまう。

「よくなかったら、最初っから追い出しているっての」
「ありがとう」
「やめろ、照れるっ」

 ありがとう、今度は言葉にしないで、心の中で呟く。斎が信頼を置く仲間は――信頼するに値する人物だった。

「そうだ、斎。頼みがあるんだ。服屋か何処か何かあれば……俺が着れそうな服を購入してきて欲しい」
「ん、いいよ。じゃあ行って来るわ」
「明日でも明後日でも全然構わないんだが?」
「早い方がいいでしょ。じゃあちょっくら出かけてくるからお留守番宜しくー」

 斎は立ち上がり、朔夜の前を通り過ぎて行く。

「ありがとう、朔」
 ――烙を認めてくれて。

「って店まだ開いているのか?」 

 郁が、今の時間帯が夜なことを思い出して一人呟く。


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