]T 「違うよ、烙」 「何が……?」 「罪を犯したのは、烙の為じゃない。俺が傷つく烙を見たくなかった。それだけ。俺が俺の為にやったことなんだ」 烙の為というつもりはない。決してそんなつもりでやったわけではない。 「いいや、それでもやっぱり俺の為だよ。……有難う」 「!?」 「裏切られたって思った時は悲しかったし辛かった、それに恨みもした。けど一番悲しかったのは、斎が目の前からいなくなった事実なんだ」 「……勝手なことしたね、ごめん。気付くの遅かったよ」 目の前にいる親友を、再び失いたくはない。 手を伸ばせば掴める、今、掴まない先に待っているのは後悔 「まだ、俺たちは親友だよな」 「勿論」 烙は斎にゆっくりを赴く。 そして斎に近づいた時、烙は斎の肩を軽く両手で叩く。 「ら……」 「馬鹿が! 勝手にいなくなりやがって、勝手に罪を犯しやがって、馬鹿だろ……」 「うん。ごめん」 穏やかな雰囲気が、辺りを包みこむ、 安堵安心、心のどこかにあいていた穴が埋まり 駆けていた歯車が合わさりあった。 そして、止まっていた時が再び動き出す。 「ありがとう」 ――親友 「明鏡止水っていったところか?」 その様子を静かに見つめる。 「そうかもな」 同意する声 「暫く、二人だけにしてやろうぜ」 元の鞘に収まったのに、此処で邪魔をするような無粋な真似をする必要は何処にもない。もう烙は斎を殺さないから。安心して篝火と朔夜、郁はその場を後にする。 [*前] | [次#] TOP |