零の旋律 | ナノ

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 例えどんな理由であれ、それを否定しない。

「取り戻して見せる、失ったものをっ」

 烙が篝火の刀を弾き、首元に刃をあてる。
 篝火は降参のポーズを軽くとる。烙は刀を鞘に戻す。

「斎なら、部屋にいるよ」

 篝火の言葉は優しかった。烙は無言で斎のいる場所へ向かう。

「いいのかよ?」
「いいんじゃないのか」
「いいんだろうよ」

 朔夜の疑問に、郁と篝火は答える。烙が覚悟を決めたのならこれ以上自分たちがどうにかする必要はない。

「そっか。ならいいか。それより郁、怪我は平気か?」
「あっ……あ、大丈夫だ。後で包帯巻いておくから気にするな」

 手首をぎゅと握り締める。痛みが迸ったのか苦悶の表情を一瞬だけ浮かべるが、心配をかけまいと笑顔を無理矢理作る。

「そうか……」

 朔夜はその行動を不審に思いながらもそれ以上は何も言わなかった。
 斎がいる場所を眺め、そして斎のいる場所へ向かう。是から起きる事と、その結末を見届ける為に。

 ――今ここに存在できる意義を


「斎!」

 玄関で靴を脱ぎ、リビングに入ってすぐ斎を発見する。真っ白なシャツに黒いズボンをはいた斎がいた。半分白と半分黒の姿。それは斎なりに覚悟の証だったのかもしれない。
 部屋に入ってすぐに烙が自分に気がつく場所に立っていた。悠然と。
 烙がここに来るのを待って。

「烙、待っていたよ」

 篝火たちが外へ出て行った時、タイミングがいいのか悪いのか烙が現れた。そのことに斎は気が付いていた、何せ窓の外から篝火たちが行くのを密かに見送っていたのだから。
 烙が現れた時、斎は目を見開いた。自分に会いに態々白き断罪を抜け出してやってきた事はすぐに理解した。けれどもこの場で待っていた。烙が自らの足でこの場にやってくるのなら、全てを告げる覚悟をした。身勝手な想いで傷つけ続けたのなら、勝手にこの牢獄へやってきたのが逃げだとしたら――

「斎……」
「いいの? ここに来てしまったら。こちらに踏み込んだら、もう二度と戻れない」

 白が染まるなら、もう二度と白には戻れない。

「わかっていて此処に自らの意思できた。斎に会うために。……斎が罪を犯したのは俺の為、なんだな」

 疑問ではなく確定。
 言わないと決めていた。告げないと決めていた。
 何があろうともそれがどんな理由だろうと、烙の傍から離れた事に変わりはない。烙と同様にまた気がついた。大切な存在が傍にいないことの方が辛いことを。守った、過去系では意味がないことを。


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