\ 一度ほどけた糸。一度崩れた土台 ――さようなら ――僕の、今回の仕事はね、ある国宝を盗むことなんだ、……本当は君と一緒がよかったけどね 認めることが出来なくて失った ――自暴自棄になって、自分を傷つけて、それで満足? いつもいつも、目を向けるのが怖くて、目をそむけた。 「郁、刀借りるよ」 烙が覚悟を、真摯な態度で自分に刃を向けるのなら今度は目を背けない。 認めたくなくて、認める事が出来なくて、否定して傷つけて――失った。同じ事は繰り返したくはない。 右手に郁の真っ黒な刀を握り構える。その姿に 「……剣士か?」 「いや、ただの泥棒さ」 ――そう、ただの泥棒。最後には国宝を盗むのに失敗して捕まった、犯罪者さ。 「篝火……お前、刀使えたのか?」 素人が持つ、それではない動作に郁は尋ねる。 「いや、元々刀は扱わないが――泥棒稼業故色々な武器を手にしていたことはあったし、元々短剣を俺は使っていたんだ。だからその関係でな」 刃を向けた相手には刃で返したかった。刃が烙の覚悟ならなおさらのこと。 相棒を失ったあの日から、篝火は武器を握るのを拒否した。拒絶した。 けれど、再び武器を握る。大切な仲間を、大切だと認める為に。 ――大切な仲間 「まぁ、こっちに来てから短剣は扱わないように避けていたんだが。短剣ではないとはいってもこんな形で武器を手に取るとはな」 後悔はない。 奪ったものだから、使いたくはなかった。それだけ 「烙……お前の覚悟、受け取った」 篝火が駆ける。烙も駆ける。 刃と刃が交差する。 「確かに、素人ってわけじゃないな」 短剣だけじゃない、長剣すら扱ったことがある動き。そう烙は判断する。 「けどっ」 長年共に歩んできた真っ白の刀が一緒の以上負ける気がしなかった。何より此処で負けてしまえば二度と斎に出会う事は叶わないだろう。立ち去ることも退くこともしない。諦めれば全てが終わる。 自分の覚悟が足りずに終わる道を烙は選ばない。覚悟したのだから、目を背けるのをやめ、向き合うことを。そして――斎から理由を聞く。 [*前] | [次#] TOP |