零の旋律 | ナノ

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 ――偽りの事実を捏造するか。……関わりがないとわかっていながら関わるとは思わなかったな。

 罪人の牢獄へ堕とされる前の出来事。
 泉が呟いた、その言葉。心意を郁は知らない。
 泉が受け入れた罪人の牢獄

 ここで出会った人達。

「あっ……」

 郁の手から刀が滑り落ちる、力が入らなくなった。
 連日の戦いで古い傷口が開きかけたりしているのは自分の身体だ、熟知していた。だからこそ負担がかからないように加減して戦っていた。しかし互角の実力を持ち、なお且つ烙の方が力強く長期戦は郁にとって不利だった。。
 地面に刀が落ちる。それと同時に滴る赤い雫。烙は一瞬目を疑う。何処も傷つけてはいない。なのに零れ落ちた雫。
 黒の衣に、赤が染み出る。郁は思わず赤が染み出る腕を握り締める。――見られたくない物を隠すように。

「……怪我をしているのに、戦ったのか?」

 烙の攻撃の手が止まる。これ以上は攻撃出来ない。

「関係ないっ……それに、これは関係ない。関係ないことだ」

 同じ言葉を三度繰り返す。まるで自分自身に言い聞かせるように。

「是は全て私の結果。お前には関係のないことだ」
「……斎のもとへ行かせてもらう」
「真実が聞けるとは限らない」

 篝火が郁の隣に立つ。

「それでも進む」

 強く強く言い放つ。迷いはない、覚悟を決めてこの場所へ足を運びいれた。篝火から最初問われた時沈黙したが、答えがなかったからではない。答えを決めていたからこその沈黙。
 想いを語るのはまだ、先。
 斎と対面して初めて紡げる本心。

「斎は、何度もいうようだが、俺たちの大切な仲間だ」

 仲間を危険にさらすわけにはいかない。あの時のように――斎の苦しんだ表情は見たくない。
 例え斎の真意が烙を守るための好意だったとしても、斎は烙の為等とは言わない。
 自分が烙を守りたかったから、独りよがりな考えで烙を陥れようとした仲間を殺したと。
 だから、それは烙の為ではないと。
 斎は烙に真相を告げたくはなかった。例えどんなに自分の為にやったと言っても烙は自分を守った為、だと深く悩み傷つく。これ以上傷ついて欲しくなかった、傷つくくらいなら――恨んでいいと。

「それに、斎はお前に真実を語るとは限らないし、その真実がお前の望むものではないかもしれないし、お前にとって受け入れがたいことかもしれないんだぞ」

 忠告。戻るなら今だと。

「それでも、俺は斎に会う」

 再び刀を向ける。今度は篝火に

「失ったものを取り戻すために」

 烙の覚悟

「……」

 ――僕は、君のことが大好きだったんだけど、君は僕のことが嫌いだったのかな?
 ――馬鹿、だったらなんで、最初っからそう言わないんだ!!


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