零の旋律 | ナノ

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「俺は会って話す、そして確認する」

 殺気はない、殺すつもりがないからだ。殺せば取り返しのつかない事が起こる。
 烙と斎が親友だったとして、篝火たちと斎は仲間。かけがえのない仲間。

「朔夜、下がっていろ」

 郁は朔夜の前に手を出し制す。朔夜の扱う遠距離の術を仕掛ければ音で斎が何事かと飛び出してくる可能性があるからだ。不必要に斎に心配をかけるわけにはいかない。
 仲間だから。

「あぁ」

 郁が烙とは正反対の真っ黒な方を向ける。右手と左手に一刀ずつ。

「……刀使いか」

 烙は静かに見据える。篝火は隣に控えながらも手を出す様子はない。どちらかと言えば、誰かを気にしているように思えた。

「お前が曖昧な態度でいる限り、私らはお前を斎に会わせるわけにはいかない」
「…………」
「はっきりしてもらおうか、お前の気持ちを。斎の敵か味方か。――曖昧はいらない」

 ――裏切られていなくても、それが私たちの為だとしても、目の前からいなくなる辛さを貴方は知らない。
 いなくなる事より、一緒にいてくれる方が何倍も心は満たされ安定するのに
 それを斎は理解していない。


+++
 白き断罪拠点

「烙は何処に行ったんだ」

 白圭は何処にもいない烙に、一つの可能性を覚えながら決してそれを口外することはしない。白圭の周りには、烙を除く白き断罪が円状に囲んでいる。是から行うのは断罪。
 全てを消そう。罪の塊を浄化しよう。例え、それで白が赤に染まろうとも。

「律、作戦を」
「……罪人の牢獄を滅ぼす作戦でいいんだな」

 律は再度確認をとる。

「勿論だ、われらはそのためにここにきた。想思のためにも、目的は達成する」
「……わかった」

 白圭が決意を確固たる決意を固めたのなら、最も効率的な作戦を打ち出すだけ。
 例えそれがどんな結末を迎えようとも。

「悧智も俺が作戦を考えても構わないのか?」

 もう一人の隊長に確認をとる。第二部隊隊長悧智は、白き断罪随一の術者としての腕前を持ちながら同時に知能戦も得意だ。場合によっては、悧智が作戦を考えたとしても不思議はない。むしろ妥当というものだ。

「構わない。そんな面倒なこと、俺はしたくないしな」
「はいはい」

 面倒という言葉に苦笑いしながら二度返事をする。

「律は帷幄の臣なのですね!」

 元気のよい透き通る声で柚葉が喋る。律は一瞬キョトンとする。

「なんで、態々そんな言葉を使うんだ?」
「え、別に変なことじゃないですよ! 意味あってますですよ」
「いや……まぁいいか」

 喜怒哀楽がはっきりとし、コロコロ変わる元気な柚葉の容姿と口調に会わない言葉に一瞬だけ驚いたが次には柚葉から目を離す。最初悧智達がやってきた時、律はその場に居合わせていなかった。
 律は目を閉じ、思案する。此処は予め情報が盗みどられないように幾重もの防御策を巡らせている。情報の入手方法を知っているからこその出来る裏技。誰にも言わず密かに行った。
 律が白き断罪に加担する理由は唯一つ、それを達成するためなら何を犠牲にしても構わない。

「まず――」

 律は口を開く。作戦の全容を詳細に告げる。
 例え、罪人の牢獄が滅んだとしても、構わない。
 例え、罪人の牢獄が滅びなくとも、構わない。
 どちらに転がろうが、目的が達成できれば、それでいい。


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